2009年7月 8日
前回、「マラソンに例えればラストスパートにかかるあたりです」と書いたものの、スペースシャトル・エンデバー号の打ち上げが延期になったために、私の帰還もその分、延期となりました。
「きぼう」の最後のモジュールである船外実験プラットフォーム・船外パレットの到着が遅れたのは残念ですが、国際宇宙ステーション(ISS)での作業、ことに「きぼう」での作業に携われる時間が予定より多く与えられたことはとても幸運に感じております。6人に増えた搭乗員も、すっかり一つの家族のようになりました。我々にとって「家」とも言えるISSの掃除やメンテナンスも、人手が3人から6人に増えたので作業分担も効率的になり、休日を休日らしく余暇として過ごすことができるようになっています。
そんなとき、この宇宙ブログのやりとりや宇宙関係のニュースから、一つおもしろいつながりに気付きました。私の乗ったスペースシャトルに蝙蝠(こうもり)が1匹張り付いたまま一緒に打ち上げられたそうです。同じようなことが私の前のミッションでもあり、私は蝙蝠に好かれているのかなあといぶかしく思っていました。
ところが地上から、蝙蝠はこのブログで意見交換をさせていただいた市川団十郎さんのご先祖、七代目団十郎が愛し、着物の紋や図柄にしたものなのだと聞かされ、「ああ、団十郎さんや日本の魂みたいなものが私と一緒に来てくれたのかなあ」と、不思議な感慨を覚えました。
日本から離れるほど、ますます日本への思いは強くなります。団十郎さんだけでなく、様々な分野で活躍される皆さんと交流をすることができたのは、日本人の思いに触れられるよい機会でありました。また、宇宙日本食は地上で食すれば普通の食べ物でありますが、ここ宇宙では絶品です。宇宙日本食を食べる度に根源的な力が湧き上がってきます。このような宇宙日本食という肉体的な栄養と皆さんとの交流という精神的な栄養分を摂取して、日本人宇宙飛行士・若田光一は元気にこれまで過ごしてくることができたのだと思います。
また、一人の地球人としては、平日の多忙さを離れて過ごす休日には、眼下を流れるように変化する地球の姿を眺めたり、興味深い光景をカメラに収めることに夢中になっています。これまで多くの宇宙飛行士も言っていましたが、地球の眺めは本当に見飽きることがありません。昼のあいだは雲の凹凸の描く模様、海流が形作る様々な青のグラデーション、火山灰を噴き上げる力強い大地の姿など、自然の営為に目を奪われます。
先日たまたまアラスカ地区で火山の噴火に遭遇しました。興味で撮った写真が学術的にも貴重とのお褒めの言葉をいただいて嬉しい限りです。一方で、夜になるとイルミネーションが浮かび上がらせる日本の姿や世界各地の大都市の広がりから、そこに生きる人間の営みや科学技術の力を感じて心を惹(ひ)かれます。
月探査衛星「かぐや」からの「満地球の出」を見て、俳人・黛まどかさんは「その中のしたたる星として現(あ)るる」と詠み、そして、「60億の人々が生き、そして、死ぬ。総てがそこに在る」と説明されていました。昼の姿も夜の姿も、我々が生まれ、育ち、そして還(かえ)るべき場所としての地球は、頭ではなく心にその尊さ・偉大さを直接訴えかけてきます。
私のミッションのロゴマークには、「夢・探求心・思いやり」という三つの言葉が記されています。「夢」には「きぼう」で拓(ひら)く宇宙への足がかりという人類の大きな目標に対する夢が、「探求心」には日本が科学技術立国として発展するための好奇心や考え抜く力を育んで欲しいという願いが、そして「思いやり」には有人宇宙開発に欠かせない、仲間とのチームワークに対する思いと私たちを生かしてくれる地球を大切にしなければとの思いが込められています。
宇宙は漆黒と表現されますが、実は漆のように艶(つや)めいたところはまったくなく、光をすべて吸い込む暗黒の空間です。その中で唯一青く輝き、昼に夜に違った顔を見せる地球の姿は本当に感動的です。私たちの世代では無理かもしれませんが、子・孫の代には多くの人々にこの感動的な眺めを共有してもらえればと思います。
この宇宙ブログでの皆さんとの対談、そして読者の方々からいただいた多くのご声援、本当に励みになります。もう一仕事してから地球に還ります。引き続き応援のほど、よろしくお願いいたします。
軌道上滞在113日目、ブラジル上空にて 若田光一
※若田さんを乗せたスペースシャトルは、3月15日(日本時間16日)に打ち上げられました。その際、シャトルの外部燃料タンクにコウモリが1匹しがみついていたそうです。NASA(米航空宇宙局)の監視カメラなどで確認されました。
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今晩は☆今回の若田さんの宇宙ブログを読んで♪まず!(家族)の大事さが!凄く!伝わりました!それと!父親は!皆!(家族)の為に働くと言う事も!改めて!痛感しました!それと!宇宙飛行士の仕事は!自分の言いたい事を言えるのでは無く!相手の気持ちも!上手く読み取る事が必要だと言う事が解りました!そして!改めて!宇宙飛行士の仕事の難しさを感じさせられました!※今回の若田さんの宇宙ブログを読んで♪改めて♪地上の良さを感じさせられました♪
そうですね。
人間を宇宙まで上げる巨大なエネルギーを安全に
扱うには、大勢の人達の協力が欠かせないですからね。
それに、あまりにも巨大すぎる宇宙に近づく程、
身近な存在が大切に思えてくるのかもしれないですね。
人間の5つの感覚の中で嗅覚が一番記憶と結びついていると聞いたことがあります。若田さんにとってこのリンゴのにおいは特別な思いをずっと抱かせてくれそうですね。空港に降り立った瞬間、その国特有のにおいがする国があります。タイなら熱気とプルメリアのにおい。日本のにおいってありますか?宇宙とは比べものになりませんが、海外在住の人間にとって若田さんのこの記事は、うんうんうなづきながら読ませて頂きました。何年こっちにいても私の根っこも日本人。お味噌汁を食べるとほっとします。若田さんに習って(ずうずうしくも、、)家族との強い絆やいい友人たちとたくさん絆が持てるようになりたいです。これって大変ですね!