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小島慶子掲載後記2

2011年8月24日

紙面に載せ切れなかった話。まず一つは、震災についてです。一部のコメントは紙面でも載せていますが、今回は小島さんがインタビューで語ってくれた言葉、そのまま編集無しで掲載します。小島さんのそのままの思いが伝わるのではないでしょうか。この中で、小島さんが最初に笑ったのが、「サンドイッチマンのオールナイトニッポン」という話が出てきます。すごく小島さんらしくて好きなんです。小島さんってオーストラリア生まれで、中学から受験で大学までエスカレーター、そして誰もが憧れるアナウンサーに・・・と、絵に描いたような華麗な経歴。なのに、普通の取るに足らない日常の幸せに喜びを感じているんですね。成功ばかりの人生を歩んできたように思える方なのに、「今でも笑えた、幸せを感じた」というのが、中学時代と同じラジオっていう。こういうところが、小島さんの大きな魅力なんだと思います。

<小島> 震災後、劇的に変わったことといえば、ラジオが命をつなぐ道具なんだってことに多くの方が自覚的になってくださったこと。

ラジオがいままでやってきたことっていうのは、もちろん東日本大震災というのは沢山の方が同時に経験した出来事ですし、沢山の人が今も大きな不安の中にあり、みなさん道半ばであるということは同じですよね。

だけれども、生きている上で何か人生に困難が起きる。その困難をのりかえるために人が何を必要とするかってことっていうのは、地震だけが特別だと私は思わないですね。

すごく出来事自体が大きくて、客観的に事実を述べただけでも非常に人に伝わりやすいような事情をともなった出来事だとは思いますけど、ただ、人がそれぞれ生きている中で、たとえば親しい人を失くすとか、それから自分が信じて拠り所としていたものを手放してしまうとか、夢を捨てなくてはならないとか、あるいは自分がものすごく弱くて取るに足らない存在になってしまったように思うとか、そういうことっていうのは実は、誰でも納得するひどい出来事ではなくても、誰の人生にも実はあって。

例えば失恋。親をなくすとか。卑近な例でいえば、学級長の選挙に落ちるとか。

東日本大震災という誰も知らなかった悲劇が、私たちの人生に突如として表れ、誰もが始めての悲劇を経験しているというのは一面ホントなんですけど、ただ、もう一面では、誰の人生にもそういうことっていうのはあって、だから今私たちが世の中っていうものを考える上で、もっとも優先しなくてはならないのは、東日本大震災で何もかも失った方々の復興だというのは、これは了解されていることだとしても、でも、ある人にとってみたら、失恋のほうがトップニュースかもしれない。ある人にとってみたら、自分が失業してしまったことがトップニュースかもしれない。もっとささやかな子どもにとってみたら、自分が仲間はずれにされてることがトップニュースかもしれない。と、いうことだと思うんですね。

それが東日本大震災の悲しみだとか、それを乗り越えることをないがしろにすることではないと同時に、東日本大震災がなければ、私たちはそのような生きる価値だとか、人生の味わいというものを考えることがなかったかといえば、そんなことはなかったと思う。

<記者>そう小島さんが語ったことは、震災で無力感を感じている、役立ってないという人にすごい寄り添えたんだじゃないかと思います。

<小島>もしそうだったらうれしいです。もうキラキラなんて、それこそ一番いらないタイプの番組ですよ。商品棚に並んでるときに、「非常用」って書いてあるパッケージをみんな手に取りますよ。ニュースとか特番とかね。だけど、非常用って書いてあるものと同時に、やっぱりそれでも、「生きててよかったな」って思うこととか、「1人じゃないんだな」とか、「歌っていいな」とか「アハハハ、うっかり笑っちゃう」とか、両方ないと生きていけないんですね。非常時であればなおさら。

実際私は東京なんていうですね、揺れたとはいえ、被害の比較的小さかったところにいてもなお、やっぱり小さい子どもを抱えて非常に大きな不安の中にあったときに、じゃあ地震の後、いつ最初に笑ったかっていったら、サンドイッチマンさんの「オールナイトニッポン」ですよ。急遽、AKBさんの枠でやりましたけど、ツイッターでずっと地震と原発の情報追ってるときに、東MAXさんと有吉さんと私ツイッター上でね、「始まるよー」なんて言って、「じゃ私も聞くー」なんて、「きこーかきこーか」って、ほかのリスナーさんも混じってきて、なんかまるでみんなで真っ暗闇で大きい部屋の中で、みんなで一個のね、話を聴いてるみたいなね、私がヤンパラ聞いてる時とおんなじ気持ちですけど、ああいう気持ちで聞いたんですよ。おっきい寄る辺ない不安と孤独をみんなそれぞれに、それぞれの場所で、被災地で聞く人もいれば、東京で聞く人もいれば、もっと遠いところで聞く人もいる。

でね、サンドイッチマンさんの「ショートコント野生の王国―」とかいって、笑っちゃったわけですよ。あとピザ屋の出前とかね。泣きながら笑っちゃって、で、ドリカムの「何度でも」とかいろんな歌がかかりましたよ。ツイッターで歌いましたよ、一緒にサビを、みんなで。泣きながら、笑いながらね。それがないと生きていけないなってものだったんですよね。

最初にツイッターで私が必死に探していた震災の情報、原発の情報、様々ないわゆる非常に価値あるとされる情報だけじゃなくて、やっぱり私はそこでみんなのおんなじラジオを聴いて、思わず笑っちゃって思わず歌っちゃって、ああでも3月10日までの世の中から、私は3月11日以降っていう非常事態に私はワープして来ちゃったと思ったんですね。ワープして来ちゃったから、それまでの暮らしっていうのは、失われたロスとワールドになっちゃったんだと思ってたんですけど、ああそうじゃないって。やっぱり、こういうことでも笑えるし、やっぱりこういうふうに震災前に聞いていた歌が、また新たな意味を持ってですけれど、やっぱり歌にも感動できるし、それを同じように分かち合う仲間たちもいるわけだから、世界は続いているって思ったんですね。世界は続いるって思えることはとても大切なことで、世界は続いているって思うために何が必要かって言ったら、日常なんですよね。それは非常時のときにすごく後回しにされがちな、すごく取るに足らないものと言われがちなことに価値をおいて、ようやく非常時を乗り越え、非常と向き合うことができるってことを私はあの時本当に痛感しまして。でもそれは、中学生の時の人生の非情事態、学校も嫌い、家もきらい、死んじゃえばいいのに私なんか、と思ってる日常をラジオで乗り越えたっていうことと、やっぱり同じだったんですよ。同じっていってもいいんだと思ったんです。「今はそんなこと言ってる場合じゃないだろう。事の重大さが違うんだよ」って言われるかもしれない。でも、個人というレベルにおいては、それが同じでいいんだと思ったんですね。同じだといわないと個人が救われないと思った。それを同じだということから復興はスタートするんだと思うんです。

なぜならば、私は復興っていうのはお気に入りの幸せを手に入れることだと思ってる。日常っていうのは、好きな水飲むとか、薬局でどのバブにしようかなって悩むとかさ、そういうことの中に幸せとか自由があるわけじゃないですか。つまりちっちゃなお気に入りとかちっちゃな選択の自由を手にすることこそが日常を手にするということであって、そんなことの中で私たちの幸せだったほとんどつづられているわけですから、それを何もかも失った人が当たり前のように手にすることができて、初めて復興したといえるんだと思うんです。鉱物を食べ、好きな音楽を聴き、好みの服を着て、薬局とかスーパーで選んで買うってことができて初めてその人の日常が普通の生活が手に入って、復興が成し遂げられたということですから、そこに今価値を置かなかったら、いけないんですよね。

非常時だからこそ、その個人の幸せ、個人のえのないささやかな価値というものに、今もう一度価値を置かないと、実は何十万という日常が取り戻される長い長い道のりというのは、本当には歩んでいけないんだと思うんですよね。ということをね、サンドイッチマンさんのラジオを聞いて思いました。ああ、そうだな、だからきっと私にもちっちゃいけど、できることはあるし、直接被災地に向かって話しかられることは電波も飛んでないしないかもしれない。だけれども、今この時代において私たちにできることは、ことの重大さの前に、時として後回しにされがちになるささやかな日常の幸せというものは、でも実はそのことの重大さの只中にある人にとって、今もっとも必要なものである。ということを忘れないでいようということぐらいは私にはできるかもしれない。それは結果として、東日本大震災というつらい出来事の中で孤独になったり、居場所を失っている人を救うことにもなるし、同時に失恋の中で、失業の中で、あるいは失意の中で居場所を失った人に対しても同じメッセージになりうると思うんですね。

(了)

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 読売新聞の水曜夕刊に掲載されている新感覚カルチャー面。旬の人のインタビューコーナー「ALL ABOUT」を中心に、若きタカラジェンヌの素顔に迫る「タカラヅカ 新たなる100年へ」、コラムニスト・辛酸なめ子さんの「じわじわ時事ワード」といった人気連載に加え、2016年4月から、ポルノグラフィティのギタリストのエッセー「新藤晴一のMake it Rock!」、次世代韓流スターのインタビューコーナー「シムクン♥韓流」がスタート。オールカラー&大胆なレイアウトで紹介する2面にわたる企画ページです。

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