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長かった謎解きの流れと解答を紹介したので、さてここからは、一気に加藤代表のインタビューをお楽しみ下さい。リアル脱出ゲームの着想や、加藤代表が昔から考えていたことが明らかになります。

◆思考を制約しないから、とんでもない行動が起こる

記者 永久欠番というヒントをずっと気にしていたんです。「C」のヒントが、7けたの文字の羅列だったので、永久欠番の説明書きを見にいってしまいました。解答用紙の地図に数字が書かれていたことを、丸っきり忘れちゃったんです

加藤 その辺がリピート率が高いところだと思うんです。やってくうちに、何が関係して何が関係ないか薄々分かってくるんですよ。ウチが、あんな細かい文章いちいち読まなあかん様な謎、作らないんすよね。1200人もいっぺんにも動くのに、あれがもし超重要だったとしたら、読むのに下手したら10分近くかかるわけですよね。そんなたった一つの言葉とかがもし重要だったら、たぶんイベントが崩壊しちゃう。あれは、フリークの人は誰もあそこに行きはしなかった。でも、どうしても分からなくて、一応見に行ったという人もいたみたい。あと、「スターは勇者だ」で、スターが全然分からないから、タバコのマイルドセブンのボタンを必死で押しまくった人とか、色々いるみたいですよ。

記者 ボクは、バックスクリーンにあったサッポロの★のマークが関係あるのかって思ってたんですけど、手元の解答用紙に★があったことなんて、忘れちゃうんですよね。

加藤 そうなんですよね。みなさんそうおっしゃいます。自分もその立場だと解けないと思うんですけど、人間はここ一番ビリっとした状況の中で、自分の能力が5分の1ぐらいになるって自覚した方がいいですね(笑)。大半の人は、ここ一番で脳みそは動かないですね、あれ見ていると。

記者 モデルの子が途中で、何で正解したのに、「○」じゃなくて「×」をつけられるんだろって言っていたけど、ボクはそういう事に耳を貸す余裕もなかった。それは制限時間による緊迫した状況による影響というものがあるんですかね。

加藤 それもあると思うし、あと、そもそも、謎が日常とあまりにも違うんですよね。つまり、家庭生活であったり社会生活であったりビジネスの世界であったりというのは、これまで自分が生活してきた時間の延長線上にあるけれども、突然バツ印が5個やってくるとか、「スターは勇者」だとかっていうのは、これまでの自分の人生と全く関係ない情報。そしてそれを制限時間以内で解けっていわれるという体験は、ほぼどこでもできないんですよね。それを、「突然やれ」ってドーンと目の前に提示されると、とっかかりがないんすよ。とっかかりがないっていうのは、逆に言うと思考を制約しないんですよね。何でも考えられちゃう。冷静になって制作者目線に立って考えれば、そんなことあるわけない。どう考えたって、「スターは勇者だ、わかったミスターだ」って思った人たちは、今そのときの自分を振り返って、「何であんなこと考えちゃったんだろうな、そんなのが答えなはずないよなあ」ってみんな思っている。

過去の経験というのは、基本的には未来の可能性を削っていく行為だと思う。様々な常識がみんなにあって、様々な国民性や生活を肯定的に手に入れていく。今、突然ボクが裸になって踊り出すなんてことはないわけですよね。ある程度、今からさあ次する行動というのは、そんなにたくさんない。せいぜい10ぐらい。だけど、ああいう場所にボンとおかれちゃって、そして、全く他ではない非日常の場所に置かれたとする。すると、行動してもいい選択肢が30とか40とかになるでしょう。だから、選べない。んで、30、40ある中から、「まさかのそれを選ぶかお前」みたいな。セブンスターのボタンを連打するとか。本当に信じられない。それがじゃあ、その人特有の独創性のあるとんでもない発想かというと、そうではない。案外、1万人以上のうちの1000人ぐらいが、変な落とし穴にはまっているんですよ。変なもんですよ。

記者 その落とし穴は、勝手に参加者が開発してくれてるわけですよね。

加藤 いや、そうですよ。ボクら正直、ミスターのところにみんなが行ったとき、「ええええーーーーーー」って感じでした。「何かあんのかあっち」って? 俺なんて全部知り尽くしてるはずなのに。いや事故でもあったのか。死体でも発見されたんかと思って。むちゃくちゃビックリしましたよ毎回ですよ。で、聞いたんですよ最初、「何であんなところへ行ったんですか」って

。そしたら「いや、みんながミスターっていうから」と。あそこに長嶋茂雄さんがいることすら気付いてなかったから。ホントビックリしましたね。

◆物語の世界で起こる面白いことは、日常でも作らなきゃ

記者 結局、最初からフリークの人は、チームを組んで、役割分担決めていましたね。最初の5問はそういうことやれば早く解けただろうし、そういう意味ではすごい可能性が広がるゲームなんだなあと思いました。

加藤 そうですね。やっぱ面白いんですよね。そうやって戦略を練るとか、ないじゃないですか。ビジネス戦略以外の戦略を、エンタメの中で練るって。デジタルゲームって、もちろんそういう戦略を練るゲームもあるとはいえ、ものすごくそれこを行動できる可能性ってのは限られる。何をしてもいい空間で、戦略を練るっていう経験って、世の中の経営者の人とかはそういうことを日常にしているかもしれないけど、普通の人はそうではないので。目的意識が明確なんですよ。脱出したよね、したい、じゃあ組もうよ、組む、って。出会いの理由もすごく明確で簡単だし、それでいて、少なくとも健全で、仲間達と協力して何かを成し遂げるという経験ていうのも、高校のクラブ活動以降だれもできないんですよね。物語の中では、案外みんなが仲間たちと協力して努力して、何かを克服して、ある種のカタルシスを得るみたいなことはしょっちゅう行われているけど、実は現実世界には極端に少ないんですよ。

例えばボクが一つ、昔から思っているのは、物語世界では日常的に起こっていることが、もし日常にないのであれば、それを日常の中にもってこなくちゃいけない。なぜかといえば、物語ってのは我々の理想が反映されるものだから。それがこっち側にないっていうのは、やっぱ誰かさぼってんすよ。

記者 こういうのが今までなかったのが不思議なくらい面白いですよね。必要でしたよね、。

加藤 これに気付いたのはボクは早かったですよね。ボクの経験からいうと、小学校5、6年生ぐらいの時に、夢の国ができたんですよ。ディズニーランドです。あそこは物語の中に入れるような国だって聞いて行ったんだけど、すごくガッカリして出てきたんですよ。物語を見ただけじゃねえかって。自分は、本を読んでて、本の中にずっと入りたいと思ってた。この少年、俺と同い年なのに何でこんなに活躍してるんだろうって。漫画でもドラえもんなんて、のびた君がボクより優れてるとは思えないけど、すげえ楽しそうに毎日やってるわけですよね。すげえうまやらしい、ドラえもん来ないかなとか思っていた。そのうち、ゲームを覚えて、ついにボクの分身であるキャラクターが画面の中で動くようになって、それも熱中したけど、でも、高校になって、それはボクじゃないっていうことに気付くわけですよね。ディズニーランドも結局、夢の国を見せられているだけで、その中でインタラクティブにボクが何かをするから、白雪姫を救えるわけでもないし、ボクがカリブの海賊になって敵と戦ってるわけでもないんですよ。闘っている人たちを見ることができるだけで。それが不満足だったんですよ。で、その物語の中に入るみたいな体験を作らなくちゃいけないんだ、って目標があったときに、ディズニーランドのようなものは作れない。でも実は、ほとんどの世の中の物語ってのは日常が舞台になっていて、今この部屋でもドラマが作れるんですよね。誰もやろうとしなかっただけで。

記者 リアル脱出ゲームを作ったきっかけは、ネットでの脱出ゲームにはまっているスタッフがいて、じゃあ現実にやってみようかということだったと聞きましたが、普通はそこから、やってみようか、という考えにはなかなかならないと思います。

加藤 やってみるということに関しては、それこそそれが我々の日常だったんですよ。ボクらは全部のスタート地点が、フリーペーパーだったんですね。39号まで出してきたんですが、「ちょっとじゃあこれ一回やってみるか」ということを39回繰り返してきたんですよ。そのうちの1個がリアル脱出ゲームで。だから、今のところ、ボクら1勝38敗なんですよね。ビジネスとして当たったのは、リアル脱出ゲームだけなんですよ。何となく、仲間内で評判が良かったみたいなのはいっぱいありますけどね。

街とつながるから、フリーペーパー

記者 フリーペーパーは毎号、何か必ず仕掛けがあるんですか。

加藤 フリーペーパーを出す上で絶対に考えなくちゃいけないのは、ウェブと違ってフリーペーパーってどうなんだろうっていうこと。なんで考えなくちゃいけないかっていうと、ウェブだってタダだし、お客さんからしたらそれほど変わらないですよ。このデータをウェブにボンと乗っけりゃいいんだから。そうじゃなくて、なんでわざわざ何十万も印刷代をかけて、印刷して、労力をかけて街にばらまかなくちゃいけないかって考えたときに、ボクがたどり着いたのは、これは街とつながっているんだということ。狭い場所にあることが意味があるんだ。世界中にばらまかれる情報じゃなくて、この街にだけばらまかれる情報。じゃあ、そこからひるがえって何を考えなくちゃいけないかというと、ボクはこれを読んだ人がああー面白かったと脇に置いておくフリーペーパーは良くない。「わー面白そう。この場所に行きたい」と、街に出かけていくというフリーペーパーを作る。そもそも、フリーペーパーと出会うためには人は街にでなくちゃいけなくて、街に出ることのハードルが少し低い。だから、ボクらは毎号何か特集をやったら、その特集にまつわるイベントを必ず街で作ったんですね。それで、謎解き特集というのをやったときに、謎解きをした人が街に出て行けるイベントって何だって考えていたときに、スタッフの女子大生が、「私そういうえば脱出ゲームていうのをしてすげー面白かったっす」って言うから、

じゃあやってみるかって。それが「謎解きの宴」という最初のイベントです。あれから、もうすぐ4年なんですね。

記者 最初から大好評だったそうですね

加藤 今から思えばすごく稚拙なんだけど、大好評でしたね。異様な盛り上がりで。最初は小さい部屋で、制限時間が15分で、5、6人の参加者が入ってやるもので。全部で100人ぐらいの参加者がいたんだけど、終わった人たちの間でものすごく会話が生まれたんすよね。どこまで行ったの?って。そして一番驚いたのは、フリーペーパーで告知をバンと出したら、応募が殺到したんです。京都の一フリーペーパーなんで、イベント企画したって、何十人と集まることはそうなくて、だいたい2、30人で細々とやっていた。だから、そのくらいかなと思っていたら、100人すぐ売り切れちゃって。こんなに違うのかって思いました。そっから倍々ゲームでしたね。やるたびに、そのやってくれた人たちが宣伝してくれて、「面白かった次行こう」って。その次の人たちもまた来るだろうからと、倍にして用意したらまた売れ切れて、きれいに200、400・・・2000、4000、8000ていうふうに売れていった。何か夢を見ているみたいでしたね。ドームでやるなんてねえ、本当に全く頭になかったです。宣伝費はほぼ0円ですね。ドームの時には、「せっかくドームでやるから、これまで来たことない人に向けて宣伝費かけてでもやろう」って言って、渋谷のビジョンに映像を流してみましたけど。そこに至るまでは、宣伝費は。mixiとかツイッターとかが発達していく恩恵はものすごく受けたとは思ってます。逆にいうと良いモノ、人の心を動かすようなものを作れたら、きちんとお客さんが伝えてくれる、いい時代だなあって思う。ツイッター、大好きですね。

記者 ツイッター、realdgameのハッシュタグの反応はすごいですね。初のホテルでの企画もすごい反響でした。

加藤 そうなんすよ。「た、高い!」とか「ホントに面白いんだろうな」って。ホテルで、ここまでリアクションがあるとは思わなかった。ごく一部のフリークが行こうかどうか迷いながら来るのかと思った。1日27人で200枚ぐらいしか販売しなくて、それこそ試しにやってみるみたいな感じで、採算はとれないんですよね。でも、ホテルと相性はいいだろうなってずっと思ってたし、夜中12時過ぎてからっていうのは、それだけでテンションが上がる。ホテルがすごくうまく行けば、そのコンテンツをもって日本中回れるじゃないですか。ホテルは日本中どこにでもあるから。いいものがもし作れればね。ホテルってリソースを気軽に掘り起こすことができるなら、やってもらえる人の数も増えるしいみたいな単純な発想ですよ。

◆タレントを呼ぶのではなく、みんなで面白いことを

記者 これだけ企画がヒットするなら、会社は今までになかったような軌道に乗ってるのではないですか。

加藤 前の自分たちに比べたら、確かにビジネスがでかくなったとはいえ、ボクらのビジネスは、1対1なんですよね。一つやったことに対して一つの報酬しかない。ウチらが回るにはずっと出し続けなくちゃいけない。気が抜けない。走り続けないといけない。不安定ですよね。1個こけちゃったら、おしまいだし。すげえ有名なアーティスト抱えていて、そいつが動けばどこでも金が入るってわけじゃないじゃないですか。必死でアイデア出して必死に仕込んでってやらないと成立はしない。

記者 でも、SCRAPがやるイベントは面白いって評価が定着しているんじゃないですか。

リアル脱出ゲームに限らず。

加藤 SCRAPとリアル脱出ゲーム、どっちがブランドかって言ったら、リアル脱出ゲームなんですよね。そもそもボクらがフリーペーパー出してることも知られていない。今度打ち出すドラマチック選手権だって応募少ないし。

記者 でも、1月に行われた「恋愛相談王」は面白かった。さすがSCRAPって感じでした。

加藤 あれは、何が面白いかって言うと、実は全員参加しているんですよね。タレントとかモデルとかお笑い芸人とかが出て、面白い事言って、それを見て帰るというイベントはボクら作らないんですよ。お客さんの中から出演者が出て、その出演者をお客さんが審査して、お客さんの中から優勝者が決まってっていう、全部ここに来た人たちだけで、イベントが成立する。それで十分エンターテイメントになる。テレビの向こうの特別な人をうらやましいと思うのではなく、今ここにいるオレたちで一番面白いこと何ができる?ってみんなで考えたら、もっと世の中面白くなると思っていますね。

(終わり)

SCRAPのサイトはこちらです↓

http://www.scrapmagazine.com/

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 読売新聞の水曜夕刊に掲載されている新感覚カルチャー面。旬の人のインタビューコーナー「ALL ABOUT」を中心に、若きタカラジェンヌの素顔に迫る「タカラヅカ 新たなる100年へ」、コラムニスト・辛酸なめ子さんの「じわじわ時事ワード」といった人気連載に加え、2016年4月から、ポルノグラフィティのギタリストのエッセー「新藤晴一のMake it Rock!」、次世代韓流スターのインタビューコーナー「シムクン♥韓流」がスタート。オールカラー&大胆なレイアウトで紹介する2面にわたる企画ページです。

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