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12月某日、「北島三郎記念館」取材のため、函館空港に降り立った私は、到着ロビーに大きく掲げられている看板を見て、一瞬目を疑いました。

★男の余裕と想像力を見せろ ~「土方・啄木浪漫館」★

12月某日、「北島三郎記念館」取材のため、函館空港に降り立った私は、到着ロビPhotoーに大きく掲げられている看板を見て、一瞬目を疑いました。

「哀愁テーマパーク 土方・啄木浪漫館」

こんな施設あったっけ? しかも、この2人の顔合わせは何!? 言うまでもなく、土方とは新選組副長・土方歳三。そして、啄木は、歌人の石川啄木です。おのおの歴史を彩った人物ですが、幕末と明治と活躍した時代もずれ、ジャンルも異なる二人が並べ称されるのを見たことがありません。異色のコラボ、そして「哀愁テーマパーク」という枕詞。どうも、色物感がぬぐえません。だが、それならそれで、見てみたい。「やられた~」という思いにうちひしがれながら施設を後にする自分の姿は、その時、容易に想像できました。しかし、それでもなお「話のネタにはなったな」と微笑を浮かべるぐらいの余裕を見せなければPhoto_3 男ではない。そう思い、空港からタクシーで浪漫館へ直行することに決めました。

Photo_2空港からタクシーで約10分。「土方・啄木浪漫館」は、遠くに下北半島を望む津軽海峡沿いに建っていました。近くには、「石川啄木小公園」があり、啄木像もありました。この辺りは、啄木が好んで散歩していたゆかりの地で、いくつもの歌の題材になったようです。

2階建てで、1階は「土方歳三」、2階は「石川啄木」のコーナー。入館料600円で両方見られるのは、ちょっとしたお得感。ただ、平日の午前中とあり、ほかに客はいませんでした。まずは、1階から。入り口は、陣幕のような紺色の長いカーテンで中が隠されていました。なぜ、隠すのかなと思いつつ、カーテンをくぐると、突然「ドーン!! 土方隊長ーーー!!!」と銃声と叫び声が響き、牢屋のような展示場所にあった武者の鎧が不気味な赤い光を放って現れました。「ひいいいっ!」と、私は心の中で叫び、一瞬飛び上がってしまいました。なるほど、これは完全にお化け屋敷の手法です。予想だにしなかった演出です。鎧を首なしの人形に着せているところが、完全に確信犯です。鎧には「終焉の鎧」という意味深な名が付いていましたが、土方が最後に身につけていたかどうかの記述は一切ありませんでした。

今度は、どんなことで驚かされるのかとドキドキしながら中へ進みましたが、後はごく普通の資料館的な展示。意外にも、と言っては失礼ですが、展示物の数は多かったです。刀、鎧はもちろん、弓矢、鉄扇、火縄銃、時計やオルゴール、さらには、手裏剣、吹き矢、巻きビシまで。「あれ、歳三って忍者だったっけ」と、頭が混乱してきましたが、「歳三の死が武士の終わりを意味するものだとすれば、武士の歴史を振り返ってみることも無意味なことではない」と、自分を納得させました。これも男の度量です。

展示物を詳しく見ると、微妙な存在価値を持つ品々が並んでいました。土方が憧れたが入手をあきらめた名刀、土方の愛刀と同工(同じ職人)で前年作、土方が捜し求めた古刀・・・。「あー惜しい!!」 私はついつい、指を鳴らしながら見回ってしまいました。ここまで微妙にかすっている品々を集めている資料館は、ほかにないのではないか。それより、土方がついぞ手に入れられなかった品まで入手したということは、土方の上を行っているじゃないか。土方に代わって夢を実現したんです! いいじゃないですか!! 微妙に遠いものから本人像をあぶり出していく作業は、直接的なゆかりの品よりも、はるかに想像力を要求されます。そうです。ここは、想像力を鍛える施設だったのです!!

さて、気を取り直して2階へ向かいます。土地のゆかりからも分かるように、ここはもともと啄木のみを扱う記念館だったようです。それが、啄木だけでは苦戦を強いられたのか、約5年前から土方歳三が援軍に駆けつけたということです。さすが、歳サン! それはさておき、そもそも啄木専門だったんだからと、期待を込めて階段を上ると、資料展示のスペースは1階の半分程度。そして、中身はまたも、想像力系! 啄木の級友の資料に添えられた説明には「啄木も受け取るはずだった修業証書」との記述が・・・。啄木の愛人の直筆によるハガキは、啄木ではない別の誰かに宛てたもの。さらに、時代物のバイオリンには、「啄木した愛用したバイオリンと同時代のものと思われる」と説明。1階と2階との「微妙さ対決」は、なかなか甲乙のつけがたいものがありました。

しかし、これだけでは終わりません。この施設が、「テーマパーク」と名乗るには理由がありました。2階の展示スペースの奥にある入り口の先には、浪漫館一番の見物「浪漫シアター」があったのでした。100人ほどの座席がある広い室内に入ると、電気が消されており中が良く見えません。客はいまだに私一人だったので、シアターの一番前に座ろうと、手探りで前方に進むと、複数の人影が目に入ってビックリ! 先ほどの「終焉の鎧」どころじゃなく、飛び上がって驚きました。よく見ると、それは3人の子供の等身大の人形でした。どうやら、教室の席についているようでしたが、そうと分かっても、どうも薄気味悪くて落ち着きません。すると、今度は教壇にスポットが当たり、突然教壇の上の人形が振り向いたのです。子供の人形に気を取られ、教壇に気がつかなかった私は、二度目のビックリ! 何と、教壇の人形は啄木ロボットだったのです(サブちゃんロボットといい、函館の記念館はロボット流行り!) そして、かすりの着物を身につけた啄木ロボットは、手や口を動かしながらしゃべりだしました。ここは啄木が函館で臨時教師をしていた教室を再現するという趣向のもと、映像で啄木の人生を振り返るというものだったのです。

驚いたのは、啄木ロボットと館内の仕掛けの連動です。映像が流れ終わると、啄木は「息抜きに風を入れましょう」と言い、同時に海側の窓が自動的に開いていき、見事な津軽海峡の景色が現れました。さらには、アーチ状の天井の窓も開き、暗かったシアターに光が降り注ぎました。これには、単純に感動しました。ただ、これだけ仕掛けにお金をかけているのに、啄木ロボットが上半身しか動かないのが惜しかった。手振りは大きいのに、下半身は微動だにせず。う~ん、何とも不自然な動き。こんなところに、哀愁が漂うとは思いませんでした。

土方歳三と石川啄木。2人の人物に脈絡がないと思われた施設ですが、お化け屋敷さながら客を驚かせる仕掛けと、展示物の微妙さでは、ほかでは真似できない一貫性があったのでした。

追記 ・・・ 浪漫館を出るとき、従業員の方が「タクシーを呼びましょうか」と言ってくれましたが、すぐ近くにバス亭もあったし、流しのタクシーもつかまるかと思い、お断りして外に出ました。ところが、バスの時間までには数十分あり、流しのタクシーもなかなか現れません。浪漫館に戻るのもカッコ悪いなと思っていたら、道沿い5メートル先にあるガソリンスタンドに給油しているタクシーがあり、外でタバコを吸っていた運転手さんと目が合いました。運転手さんは車を探してキョロキョロしていた私の様子に気づいたようで、手を上げて私を呼んでくれました。そんなわけで、ガソリンスタンドまで歩いて無事にタクシーに乗れたのですが、手を上げて呼び止めるはずのタクシーに、逆に呼び止められるのは、何か損したような納得できない気持ちにもなりました。 

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 読売新聞の水曜夕刊に掲載されている新感覚カルチャー面。旬の人のインタビューコーナー「ALL ABOUT」を中心に、若きタカラジェンヌの素顔に迫る「タカラヅカ 新たなる100年へ」、コラムニスト・辛酸なめ子さんの「じわじわ時事ワード」といった人気連載に加え、2016年4月から、ポルノグラフィティのギタリストのエッセー「新藤晴一のMake it Rock!」、次世代韓流スターのインタビューコーナー「シムクン♥韓流」がスタート。オールカラー&大胆なレイアウトで紹介する2面にわたる企画ページです。

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