2009年4月 9日
市川團十郎様
いつも変わらぬ、そして示唆に富んだ応援のお言葉、有難うございます。ようやく忙中閑を得て軌道上からお礼を申し上げることができるようになりました。
これまでも温かな励ましのお言葉をいただいていることもあり、「待たるるとも待つ身になるな」とのお言葉が身に染みました。私の打ち上げを楽しみにしていてくれた日本の皆さん、ことに打ち上げ地の米国ケネディ宇宙センターにいらしていただいた皆さんそして小林麻央さんには、度重なる延期で帰国を余儀なくされ打ち上げの感激を共有していただけず大変残念でした。
その分バリバリとミッションをこなして期待に応えたいと思います!
「待つ身」と言えば、シャトルがドッキングしたときのことです。ISS(国際宇宙ステーション)へつながるハッチが開放され、我々がISSに入室した際、私と交代で地上に戻るサンドラ・マグナス宇宙飛行士が真っ先に満面の笑顔で私を迎えてくれました。彼女は既に4ヶ月余りの滞在を終えており、「待つ身」から解放されたせいなのでしょうか、他のクルーに比べてもひときわ大きな歓迎ぶりでした。
さて、私にとっては二度目となるISS訪問。前回は建設が開始されて間もないときでしたが、今回はすでに80%が完了しています。狭いシャトル機内からジャンボ機と同じくらいの内容積がある広いISSに移ったときの開放感はこれまでにないものでした。
ISSの中では東西南北そして天地のとらえ方が地上とは全く異なります。ISSでは常にフワフワと浮かんだ状態であるため、「天井」方向に照明を設置して上下感覚を人工的に発生させ、方向感覚を消失しないような工夫がされています。
ただ、本質的には東西南北/天地の概念はありません。ISSの中では歌舞伎のような堂々とした歩き方はできません。しかし、国際宇宙ステーションが秒速8kmで地球を周回している様を天空の彼方から見てみれば、不規則な息をしながら生きている小さな人間が力を合わせて作り上げた人類史上最大の宇宙構造物がまさにその花道で「六方」を踏んでいるようにも見えるのではないでしょうか。
すでにISS滞在を開始して半月以上が過ぎ、身体の反応はすっかり無重力に適応してしまいました。手に持っていたペンを、ちょっと使わなくなったときにひょいと浮かべておいたり、足ではなく手でもって壁を突き放すだけで目的地まで移動できるなど、いまでは無意識に行うようになりました。
意識の変容よりも行動の変容の方が早いようです。お土産話も着々と貯まっております。「待たるる身」としてはミッションの成功を大きな手土産に持って帰りますので、それで「待つ身」のご容赦をいただければ幸いです。
軌道上滞在23日目、日本上空にて。 若田光一
★市川團十郎さんから若田さんへのメッセージはこちら
宇宙の若田さんの写真
地上の若田さんの写真
きぼう アラカルト(ニュースでたどる若田さん@SPACE! )
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Chaosから、少しずつ、その自然の有順なものを静かに読み出すことが、学者、或いは科学者にとって、それ以上愉快なことがない。何の手もかけないのに、人間は自然の神性に傾ける好奇心だけで、自然がだんだん理解されるようにとなってきた。それは素晴らしいことだよ。宇宙、という特別な角度から、人間の創造力以外のものがまだ見えるかしら、楽しみ。