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4月から新しく宝塚を担当することになった田上記者の素朴な感想&質問に演劇担当の小間井記者が答えます。(観たのは星組の東京宝塚劇場公演「ロミオとジュリエット」B日程。4月21日に観劇。現在は緊急事態宣言発令に伴い5月11日まで休止中。公演は5月23日まで)

田上:ミュージカルは劇団四季のメジャー作品を何回か見たことがあるだけ。宝塚については「女性だけの劇団」という知識しかなかったが、男役に関して、女性であることを一切忘れて見てしまいました。特にティボルト(瀬央ゆりあさん)がめちゃくちゃ男らしく、格好良かった。むしろ「男らしく」というより、男性には到達できない、非現実性、格好良さがありますね。

小間井:男役は「宝塚歌劇」という夢の世界で男性役を担う人たち。男らしさとはまた違う気がします。男役を盛り立てる娘役の存在も欠かせません。娘役が娘役力を発揮するからこそ男役も輝くし逆もしかり。

田上:劇が始まる直前に舞台前にかかっている「Romeo~」の電飾がまずきれい。劇が始まった直後、一気に両家の人が登場するシーンは、ここまで大人数の人がバッと舞台に現れるのを見るのが初めてで、非現実の世界に引き込まれる感じがしました。

小間井:人海戦術は宝塚の醍醐味。それが、今は感染防止対策として下級生の人数を半分に分けて出演させているのは少し寂しいものがあります。(注:4月27日~5月11日まで緊急事態宣言下のため観客を入れての公演は中止となっています)

田上:全員出演していたらさぞ、もっと迫力があったんだろうなぁ。主要人物たちの会話と歌でストーリーは進んでいくんですが、せりふが特にない人もあいづちをうったり雑談したり、それぞれが役作りしているのがすごいと思いました。

小間井:宝塚はどんな端っこにいる生徒も「全力でやる」。全員が20倍前後の倍率をくぐり抜けて宝塚音楽学校に入学した人たち。音楽学校卒業者じゃないとタカラジェンヌにはなれません。そんな誇りがタカラジェンヌの一生懸命さにつながっていると思います。

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田上:「死」「愛」という概念的なキャラがいることで、物語の心理描写や流れが強調されてよかった。ただ、小間井さんに教えてもらわず見ていたら、キャラの意味を理解できていなかったかもしれません。

小間井:今やっている「ロミオとジュリエット」はジェラール・プレスギュルヴィックさんというフランス人作曲家が作曲したバージョン。フランスではコンサート会場のような大会場で行われる「スペクタクル・ミュージカル」の一つで、2001年に初演されてから世界中で上演されてきました。フランス初演でも「死」はいましたが、「愛」の存在を加えたのは実は宝塚版が最初なの。「潤色の天才」こと座付き演出家の小池修一郎先生のアイデアだったんだけど、これが絶妙にうまく作用していると思います。宝塚では2010年に初演。初演で「愛」を演じた礼真琴さんがロミオを演じているのが目玉です。

田上:今回の見どころはどこですか?

小間井:やっぱり歌・ダンス・演技と三拍子そろった礼真琴さんの圧巻のパフォーマンスでしょうか。以前から激しいダンスの後に全く息切れせずに美しい歌声を響かせるのがもはや特技みたいな感じでしたが、今回は推定20キロの大羽を背負いながらやはり息切れゼロで歌いまくっています。「もう参りました」というしかないですね。そして、ジュリエット役の舞空瞳さんもよくついていっています。フィナーレのデュエットダンスの動きは「キレがいい」の一言では済まない高速ぶりです。

田上:単純に「すごいなぁ」と思っていましたがやはりただ事ではなかったのですね。

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小間井:そして今回は史上最多の9役の役替わり。星組二番手の愛月ひかるさんがティボルトと「死」を演じています。死はこれまで若手スターが演じてきたイメージでしたが、二番手が演じることで存在感がすごいことになっていると思います。あとは天華えまさんがA日程では「死」をB日程ではマーキューシオを演じています。マーキューシオのソロ曲は難曲だけど見事に歌いこなしています。あとは綺城ひか理さんの安定感や極美慎さんのキラキラ感も宝塚らしさがあります。今回いいな!と思うのは乳母役の有沙瞳さん。これまで娘役スターや専科、男役と様々な人が演じてきた乳母役だけど情感豊かで素敵な乳母像を作り上げています。歌も素晴らしいです。

田上:なるほど。

小間井:マニアックなところでは、バルコニーの場面で階下から乳母に「おじょうさまぁ」と呼ばれたのに対してのジュリエットの反応が面白いです。「今行くってば」の言い方にドスがきいていて客席から笑いが起きていました。ここで笑いを取るジュリエットは舞空さんが初めてです。なかなか思い切った役作りで好感が持てました。

田上:また見る機会があったら注目してみたいと思います。本編と同じくらい、物語終了後のショーの迫力がすごかったです。むしろこの階段を降りてくる感じが、私が以前想像していた宝塚のイメージだったので、「待ってました!」という感覚だった。特にダンスでは、女役と男役がそれぞれ出てきて、分かれて踊るシーンが圧巻だった。「ハッ」とか「キャー」のように、かけ声を出しながら踊る姿がきまっていた。

小間井:「キャー」? そんなのあったっけ? 「ヤッ」なら分かるけど。

田上:ちょっと聞き違いかも……。あんなかけ声はこれまで様々なダンスなど見てきて聞いたことがなかったし、普通のダンスで言っても絶対にダサくなるので、あれをキメられるのはすごい。ただ、劇中は衣装があるので見分けがつくが、ショーになるとメイクがしっかりしてあるので、顔の見分けがなかなか難しかった。

小間井:よく初めて見た人は「顔の見分けがつかない」って言うけど、慣れたら「見分けつかないの意味が分からない」ってなると思うので今月発売の「おとめ」(生徒の名前や愛称などが書かれた一覧ブック)を見て名前と顔を覚えてみてください。

田上:分かりました! それでは素朴な疑問ですがいいですか? まずトップスターとは何なんですか。どうやったらなれるのでしょうか?

小間井:劇団の人ではないので分かる範囲で答えますが、トップスターとは主演男役。宝塚の花・月・雪・星・宙の5組にそれぞれ1人いて、大劇場公演では原則としていつも主役を務めます。宝塚ではスターシステムをとっていて、スターに序列があるの。トップになるには? うーん、下級生時代から技術を磨き、役をもらいます。新人公演の主演を任されたり、バウホールという宝塚大劇場の隣にある劇場公演の主演を任されたりして徐々にランクアップしていきます。ただトップへの上がり方は人それぞれなので一言では言えません。ただ一朝一夕でなることはありません。娘役トップもしかりです。

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田上:組によってキャラクターや持ち味、演目に違いはあるのでしょうか。

小間井:これも私見ですが、花組は「ダンスの花組」と言われ、数多くのショースターを生んできました。月組は「芝居の月組」と言われていて大地真央さんや黒木瞳さん、天海祐希さんなど一般的にも有名なスターを輩出しています。雪組は日本物(着物を着た日本の時代劇)に強く、殺陣の美しさなどもよく言われる一方、最近は漫画原作も多く手がけています。星組は華やかでゴージャス、コスチュームもの(貴族のような衣装を着て演じる歴史劇作品)に強いと言いますが、近年はそこまでコスチュームものに特化せずチャレンジングな作品も多くやっている印象です。宙組は1998年発足と一番若い組でスタイリッシュ、重厚なコーラスが素晴らしいです。

田上:ロミジュリで神父を演じていた英真なおきさんがいる専科とは?

小間井:専科は芝居、歌、ダンスに秀でたスペシャリスト集団で、組に関係なく出演することができます。

田上:中途入団とかはないんですか?

小間井:中途入団は一切ありません。辞めた人が再入団するのも聞いたことがないです。

田上:卒業する人としない人の違いは。

小間井:これもタカラジェンヌそれぞれなので何とも言えないわ。よく言われているのが、タカラジェンヌは頭の中で「鐘が鳴る」らしいです。

田上:鐘が鳴る……?

小間井:達成感を得て「今だ!」と思う瞬間があるそうです。

田上:奥が深いですね……。開場前に会場前で列を作っていた人たちは何をしているんですか?

小間井:ファンクラブの人たちね。スターにはそれぞれファンクラブがあって、公演のチケットをあらかじめ申し込んだ会員の人たちに公演前に渡しているらしいです。

田上:観劇のマナーはありますか?

小間井:背中は背もたれにぴったりつけてください。かけ声は禁止。コロナ禍ということでさらに休憩中のおしゃべりも控えてくださいね。

田上:公演中、出てくるだけで拍手される人がいるのはなぜですか?

小間井:スターが出てきたり、歌い終わったりしたときに拍手をします。拍手は公演の一部といってもいいです。お客さんの拍手が入って公演が完成します。

田上:なぜ、休憩が35分もあるんですか?

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小間井:コロナ前は30分だったんだけど、換気時間を十分取るために35分になっています。宝塚の基本はお芝居とショーの2本立て。お芝居とショーでは化粧も全然違うので、30分は必要なのです。1幕が和物ショーのときはコロナ以前でも化粧替えが大変だから35分でした。あとは商業演劇の流れで、1幕と2幕のあいだに食事やお茶を飲む文化があるので30分くらいは必要なのよ。大劇場では併設されたレストランで、幕あいに食事をする人も多いです。

田上:なぜ、劇で亡くなったはずの人たちが生き返って、歌やダンスに登場してくるんですか?

小間井:それが宝塚らしさでもあるわね。どんなに悲劇で終わってもそれを昇華するかのような場面があることが多いです。ハッピーな気持ちで劇場を後にすることができるのです。


田上:太っていたはずの乳母役の有沙瞳さんがスッキリと衣装を替えてフィナーレに登場したのは驚きました。着替えの早さにも。

小間井:それは有沙さんが物の見事に乳母の役作りを徹底していたということです。

田上:すっかりだまされました。

小間井:「ロミオとジュリエット」は2幕で完結する「1本もの」なので、今度はぜひ芝居+ショーの「2本立て公演」を見てね!

田上:楽しみです!

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 読売新聞の水曜夕刊に掲載されている新感覚カルチャー面。旬の人のインタビューコーナー「ALL ABOUT」を中心に、若きタカラジェンヌの素顔に迫る「タカラヅカ 新たなる100年へ」、コラムニスト・辛酸なめ子さんの「じわじわ時事ワード」といった人気連載に加え、2016年4月から、ポルノグラフィティのギタリストのエッセー「新藤晴一のMake it Rock!」、次世代韓流スターのインタビューコーナー「シムクン♥韓流」がスタート。オールカラー&大胆なレイアウトで紹介する2面にわたる企画ページです。

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