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素晴らしいできばえと客席50%以下に制限していることもあり超チケット難公演となっている宝塚歌劇団月組「ダル・レークの恋」。いつもは年末に開催している担当記者による宝塚座談会ですが、その魅力を語り尽くすには年末まで待てない! 記憶が鮮明なうちに緊急座談会をポップスタイルブログ上で開催します! (ネタばれご注意)

出席者

森重 落語好きの伝統芸担当。紅・綺咲コンビが好きだった。元popstyle編集室員・森ゾー。

山田 宝塚では「悲恋もの」に涙したい。連載「タカラヅカ 新たなる100年へ」担当。

小間井 卒論テーマが「インドの開発経済」だったのを思い出した。連載「タカラヅカ 新たなる100年へ」担当。

※月組「ダル・レークの恋」は2月28日まで東京・赤坂ACTシアターで、3月14~21日に大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで上演。

「ダル・レークの恋」は菊田一夫さんの作。初演は1959年で春日野八千代さん演出・主演。1997年にレビューシーンを盛り込んだ一本立て作品に。麻路さきさん、瀬奈じゅんさんの主演で再演されています。

それでは、座談会のはじまりはじまり、です!

「ダル・レークの恋」とはなんだったのか

 小間井 ブクブク……。ラッチマン(月城かなと)の愛とは何か、考えすぎてダル湖に沈んだまま浮かび上がることができません……。

山田 宝塚らしい悲恋ものよね。「すれ違いの恋」を描いているけど、そこに「身分」も加わって、一筋縄ではいかない恋。自らもマハラジャの息子だということが明らかになったにもかかわらず、ラッチマンがカマラ(海乃美月)を振ってしまうのはなぜ?

森重 最後、ちょっと堂々としすぎている気がしたな。最後に別れを切り出したときに「やせ我慢感」を出してくれると男の観客は共感できた気がします。あれだけ愛していた女となぜ別れるのか、その理由が結局よくわかりませんでした。

小間井 何言ってるんですか、「やせ我慢」が出たら「男はつらいよ」の寅さんみたいにコミカル感が出てしまいますよ。やせ我慢するくらいだったら一緒になればいいと思いますね。堂々としているからミステリアスなんです。あと「男の観客」って主語が大きすぎます。

山田 ラッチマンは、カマラが身分違いを理由に愛を拒絶したことを許せなかった。希代の詐欺師と決めつけられたことも手伝ってヤケになっちゃったのよね。で、彼女を罰するため我がものにした。結局、最後は彼女を辱めたことを悔いて自らを罰するために彼女の前から姿を消す――。そんな「愛と罰」をめぐる物語なのかと。

小間井 ラッチマンは一貫してカマラを好きなんでしょうね。でもラッチマンがマハラジャの息子だと分かった後、カマラは「以前にも増してあの人を愛しています」と言うんです。身分関係なくカマラの愛を感じられたのは湖の船の中での一夜だけ。純粋なカマラの愛があの一夜を超えることはないから離れるんだと思いました。

森重 潔癖すぎるだろ。男女が一緒にやっていくには妥協も必要でしょう。カマラの立場にもなってやれよ。

小間井 現実にはそうです。でも物語のなかだからラッチマンみたいな男もいてもいいんじゃないかと。男役が演じるからこそ生きる男性像だなと思います。

山田 見る人によっていろんな解釈ができるところが魅力的なのかな。

 

「ダル・レークの恋」が生まれた時代

 森重 今から62年も前の初演で、菊田一夫作、主演が春日野八千代というだけで時代を感じる。かといって、これまでに再演が2回のみで、「ベルサイユのばら」とか「エリザベート」のように何度も再演されている人気演目になっているわけでもなさそう。きっとイメージに合うキャストが出てくるのが難しい演目なのだろう。初演の春日野の写真を見たが、確かに男の妖しい色気がムンムンしているのが伝わってくる。

山田 やはり、古さは感じると思ったわ。

小間井 ちょっと待って。初演は1959年。連合軍に「アーニー・パイル劇場」として接収されていた東京宝塚劇場が返還されたのが1955年で、その4年後。海外旅行が一般的でない時代で情報もなく、ミュージカルとはどんなものか手探り状態で作ったはず。ちなみにブロードウェーミュージカルが初めて東宝で上演されたのが1963年です。「マイ・フェア・レディ」日本版で、菊田が上演権を獲得してきました。オードリー・ヘップバーンの映画版はその翌年。そう考えるといかに斬新な作品だったかが分かるでしょう?

森重 ラッチマンは本当は王族の出なのにもかかわらず、その素性を隠しているという歌舞伎にもよくある「やつし」の設定だった。こうした作劇術を菊田一夫が1960年前後に宝塚に採り入れようとしていたのだとしたら演劇史的にも興味深い。ちょうど「東宝歌舞伎」華やかなりし時代で、(1961年に高麗屋一門が松竹から東宝に移籍している)、歌舞伎と宝塚を両方興行するようになった東宝にとって、歌舞伎の要素を宝塚に入れようとする動きがあったのではないか。

小間井 私も歌舞伎みたいな作劇だなと思いました。「愛想尽かし」とか。しかし、菊田一夫に関する著書によると、菊田は「大の歌舞伎嫌い」で知られたそうです。まぁ、知ってないと「嫌い」とは言えないですから歌舞伎を熟知していた上で、ミュージカルそのものが一般的ではない時代に嫌いだけどひねりある作劇をしようと思ったら歌舞伎の様式に頼らざるを得なかったのでは。菊田自身、あまり恵まれた幼少時代ではなかったようです。作品には身分差の恋を取り上げた作品が多く、上流階級への複雑な思いが投影されていますね。

森重 歌舞伎嫌いだったの? 1幕でラッチマンがあえて詐欺師の振りをして2幕で狂言だったと明かすところ、あれも悪人だったのが実は善良な役という「もどり」の手法だよ。

山田 好きなんだか嫌いなんだか。愛をこじらせがちなのはラッチマンみたいね。

 

ゆったりとした空気の流れ、レトロなせりふ

 山田 現代の感覚で言えば、「ここが変!」というところが逆説的に魅力になっていた気がする。「女の魂を奪ったことはあります」「私の要求はあなたです」「来るんですか、来ないんですか」……。宝塚の男役以外が言うのは許されない、赤面もののセリフの数々……。

小間井 「人でなし!人非人!」「それから?」「悪党!」「それから?」――。「それから?」の言い方がまた最高なの。ペペル(暁千星)の「逃げやしねえよ」もたまらない。

山田 カマラの「さぁ!卑しいことをなさい!!」はパンチがある。バルコニーでの言い争い、円形ベッドのシーンなど、1幕はマスクの下のニマニマが止まらなかった。演出面では、水の精の役が目を引いたわね。水が通奏低音となっていて、いい感じ。

小間井 湖、川、雨、酒、そして涙ね……。しかしツッコミを入れさせてほしい。港町の場面だけど、沐浴用のガート(階段)がある「ザ・インド」な光景はベナレスで、映像にあるのはガンジス川では? だがしかし、歌詞に登場するのはインダス川……。

山田 ファンタジー上のインドだからいいんじゃない? 実際、インドでもシーク教徒しかターバン巻いてないっていうし。

森重 えっそうなの? ツッコミといえば、7年前に詐欺に遭った犯人の顔を果たして忘れるものだろうか。1幕の港町でマハラジャのチャンドラ(千海華蘭)がペペルに気付かないのは菊田脚本の粗さではないだろうか。

小間井 マハラジャは会う人も多いし年だから……。

森重 無理筋を通すならもう少し、演出的なしかけが必要だろうと思った。じゃあどうすればよかったかと言われてもわからないが。あと、インドの猥雑な感じとパリのおしゃれなアンニュイ感を対比して描ければ舞台転換にめりはりが出たのでは。

山田 そこは、れいこさん(月城)が見た目で存分にギャップを出してくれたから私は満足だわ。インドでは精悍な騎兵大尉の軍服姿を何種類も見せて、パリの回想シーンでは「オールバック」「タキシード」「白ストール」の3点セット。これって、れいこさんが最強に素敵に見える装いじゃない?「THE LAST PARTY」「クルンテープ」でも同じスタイルがとっても似合ってたし。劇団内にも、3点セット推奨者がいるんじゃないかしら。

小間井 インド感といえば、フィナーレの若者たち群舞がマサラムービーみたいだったじゃない?

山田 数人ずつピックアップの場面もあって、新人公演がない今、下級生が生き生きと踊っているのを見るのは心地よかった。

 

気になるエピソード0と続き

小間井 私は7年前のパリの時点で既にラッチマンがやさぐれているのが気になった。

森重 「乾いた心に注ぐのはこの濁った水だけ」って酒をあおっている。いったい何があったんだろう?

小間井 身分差のある大失恋があったと想像しました。ラッチマンはたまたま見に行ったムーラン・ルージュの踊り子「ラ・グリュ」と恋に落ちてしまって、支配人シャルルが「うちのダンサーに手を出すな」とどなり込みに行ったところ、あまりにも自分と顔がうりふたつなもんだから ラッチマン「に、にいさん?」シャルル「弟よ……」

山田 「ピガール狂騒曲」じゃん!

小間井 というわけで、「ダル・レークの恋―エピソード0―」を妄想してしまった。いわゆる壮大な大河ドラマの前後が切り取られた作劇なんだよね。続きももちろん気になる。私はありちゃん(暁)のキャラクターに愛嬌があるせいか、ペペルが根っからの悪者に思えなくて。リタをだますつもりが本気で好きになってしまう展開を期待しています。

森重 ミイラ取りがミイラってやつだな。

山田 カマラとラッチマンは十数年後に再会して当時の行き違いを懐かしく回想しつつ、再び恋が燃え上がる。でも別々のパートナーがいて……。

小間井 「ダル・レークの恋―THE FINAL―」。いつかやってくれる日を待っています! 

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 読売新聞の水曜夕刊に掲載されている新感覚カルチャー面。旬の人のインタビューコーナー「ALL ABOUT」を中心に、若きタカラジェンヌの素顔に迫る「タカラヅカ 新たなる100年へ」、コラムニスト・辛酸なめ子さんの「じわじわ時事ワード」といった人気連載に加え、2016年4月から、ポルノグラフィティのギタリストのエッセー「新藤晴一のMake it Rock!」、次世代韓流スターのインタビューコーナー「シムクン♥韓流」がスタート。オールカラー&大胆なレイアウトで紹介する2面にわたる企画ページです。

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