2009年5月20日
平野レミさんへ
宇宙食にもいろいろありますが、やはりカレーのような味がはっきりしたものを美味しく感じます。無重量状態で、身体の中の液体が頭の方に上ってきて、風邪を引いたときのようなある種の鬱血(うっけつ)状態に近くなり、味覚が多少鈍くなっているのかも知れません。美味しいものを宇宙でもいただけることがストレスの解消に役立っています。
また、食事の時などのクルーの団らん時に話題を提供してくれるという側面もあります。「カレー」や「ラーメン」なら、これが外国から来たにもかかわらず、いかに日本で独自の進化を遂げて国民食になったのかということや、「サバの味噌煮」のような魚料理であれば、日本が四方を海に囲まれているために昔から魚が主要なタンパク質の摂取源になっていたかということです。「サバの味噌煮」といえば、日本人の中でも好き嫌いがありますが、アメリカやロシアなどの国際パートナーの宇宙飛行士にも意外にも大人気です。
忙しいときには、食事もゆっくりできない日がしばしばありますが、やはり、みんなとわいわい食卓を囲むのは楽しいものです。何かの祝い事があると、みんなで自分の好みの食品を持ち寄って集まります。美味しいものをたらふく食べられて、最高です。軌道上に来て既に2か月がたち、体重が4キロ程度減りました。1日の摂取エネルギーは私の場合、最低でも2500キロカロリーくらいで、日々満腹感を覚えるくらい食べているのですが、これは私だけでなく、ほかの宇宙飛行士も大方同じ傾向です。無重量環境で代謝機能が落ちるためなのでしょうか、不思議ですね。
食べてみたい「平野レミ風宇宙日本食」
ただ、無重力状態では、食事の食べ方も異なってくるのは平野さんのお書きになっているとおりですが、調理の仕方も変わってきてしまうのです。宇宙食はレトルトパック、缶詰、フリーズドライのものが中心です。例えばラーメンやスープなどは、お湯をパッケージの注水口から入れて戻します。カレーのようなレトルトは、伝熱式のヒーターで温めます。平野さんも地上ではレミパン片手に華麗に料理をお作りになっていらっしゃいますが、宇宙ではフライパンをちょっとあおっただけでも材料が全部天井に衝突してしまうことになるから注意が必要です。でも、レミパンにはフタが付いているから大丈夫ですね(笑)。いつか平野レミ風宇宙日本食を軌道上で作って食べてみたいですね。
このほか、ストレスの解消にはもちろん食事だけでなく、家族や友人に電話できることも役立っています。国際宇宙ステーション(ISS)には狭いながらも(電話ボックスくらい)個別の寝室があって、時にはここで、一人でゆっくり地上から持ってきた本を読んだりしています。週末など、クルーみんなで映画鑑賞をする時もあります。
毎日2時間の運動も、走りながら音楽を聴いたりすれば、リラックスタイムに早変わりです。激しく運動すれば宇宙でも筋肉痛にはなるのでしょうが、宇宙飛行士は日頃から欠かさず運動をしているので、宇宙滞在時の運動でもスムーズにこなしています。
1年前にISSに長期滞在した米国のS・ウィリアムス飛行士は、ボストンマラソンで2時間走ったときの距離と合わせて軌道上で42.195キロを完走しています。私は最初の頃は毎日、本当に慌ただしい日々が続いていましたが、最近では生活のリズムも作れ、本当に楽しみながら宇宙滞在を続けております。
湯船ができない宇宙 お風呂に入りたいなあ
ハーモニーモジュールにある寝室にて
今回が私にとって3回目の宇宙飛行で、慣れもあり不便に思うようなことも少なくなりましたが、それでも疲れたときに頭をよぎるのは「お風呂に入りたいなあ」ということです。無重力状態では湯船にお湯を張ることはできません。仮にISSに水道の蛇口があったとして、それをひねったところで蛇口の周りに水玉がどんどん膨らんでいき、そのうち蛇口のついている壁面にペタッと吸い付くように水が広がってしまいます。
涙も同じで、大泣きしても涙は粒にならず、目の周りの皮膚の上に広がって行くのが見えるでしょう。ともあれ、お風呂に入るというのは、この宇宙滞在から帰ったら真っ先にしたいことの一つです。いまはすっかり宇宙生活に適応してしまったので、地上に戻ったらISSで無意識にやっていた動作(使わないものをいったん空中に置いたり、軽々とものを動かしたり)ができなくて不便に思うかもしれませんね。
すっかり宇宙での生活に適応した、若田光一より、 (2009年5月16日、ニュージーランド上空にて)
写真は、上から (1)ロシアサービスモジュール内で自転車漕ぎの運動 (2)JAXAの宇宙日本食 (3)ハーモニーモジュールにある寝室にて
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★前回の平野さんからのメッセージはこちら
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宇宙の若田さんの写真
地上の若田さんの写真
きぼう アラカルト(ニュースでたどる若田さん@SPACE! )
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若田飛行士、体重が減少したとのことですが、宇宙で体重を測定する時は、どのように測定するのでしょうか。ぜひ今度教えてください!
若田さん望遠鏡修理お疲れ様でした。またこれから何年も使えるようになったみたいで良かったですね。あと一ヶ月頑張ってください。
おととい、宇宙での体重の測定方法を質問した者ですが、なんとその答えが昨日の読売新聞に載っていました!バネを使ってるんですね。面白いです。どうもありがとうございました。