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第5章 魅力

 宇多丸 過去にも、楽曲に力を入れているアイドルは当然いっぱいいたわけです。ただ、この20年間で、女性アイドル歌手というものの市場が次第にファン限定の「閉じた」ものになってゆくにつれて、送り手側も音楽にコストをかけるより、もっと手っ取り早く、手堅く金になる商売の方に流れてゆきがちになってしまった、というのはあると思います。ただ、アイドル史を振り返ってみると、世間にブームを起こすようなターニング・ポイントは、Photo_6やはりちゃんと音楽的なクオリティが高いものが担ってきたんだと思います。例えば松田聖子は、CBSソニーならではの、当時としては垢抜けた音楽的センスをアイドルソングに持ち込んだことで、新時代を切り拓いた。モーニングだってそうですよね。もともとは「アイドルってこういうものだよね」っていう固定観念を打ち破る、新しい方法論を持ち込んだからこそ成功したんで。

 その意味では、Perfumeのブレイクも完全にその定式にのっとっているとも言える。プラス、さっき掟さんがおっしゃったように、今はそれがさらに、お金をかけた大量宣伝などなくても、ネット時代の恩恵で、わりとダイレクトにユーザーに届くようになっている。

  真っ当なことをやってればやってるほど売れなかったりしますよ。それが普通。

 宇多丸 そう。アイドルに限らず音楽全般に、いいものだから売れるっていう正しいことは、滅多に起きない。だからこそ、たまにこういう正しいことが起こると本当にうれしい。

  細野晴臣さんも言ってましたけど、「作った曲がいい曲なのは当たり前、でも売れるかどうかは別」だって。いい曲を作るのは単なる前提だと言ってるんですよね。

 宇多丸 僕は正直、もちろんPerfumeは最高に素晴らしいと思いつつも、今後どれだけPerfumeの作品が広く世間に受け入れられることがあろうとも、最後の最後にやっぱり、「アイドル的である」という壁が残るんじゃないかと、ずっと思ってたんですよ。やっぱりこう、女の子が振付けで踊ってる時点で、世の中の人はバカにするんじゃないかっていう不安が、どうしてもあった。でも、意外とそれは単なる思い込みに過ぎなかったというのを、逆に教えられましたね。アイドルっぽいこと自体がダメなんじゃなかったんだと。

  逆にね、例えば「Perfumeの音楽はクラブミュージックだ」と限定して売ってしまっていたとしたら、一般層が受け入れるのがけっこう大変だったりするもんですよ。オシャレなものをそのまま受け入れるのはスノッブな人間のやることだという思い込みがあるから、「オシャレでない俺がこんなオシャレなものを聴いていいんだろうか」みたいな状態も生まれる。だから、アイドルであることが、オシャレを薄めるための材料にもなっている。

 宇多丸 あ、そうか、逆にどっちの壁も下げてる。

  うん。あとは、今までアイドルに免疫のなかった人ほどそうだと思うんだけど、「アイドルを好きになる」ってところがやはり高いハードルだと思うんですよね。でもね、高いハードルを越えてファンになることが、より入れ込むための材料にもなって、より大きな熱狂を生んでいるんじゃないかと。何の変哲もないいいものを素直に受け入れるのってすごく簡単ですけど、素直に受け入れたものって実は素直に忘れやすいじゃないですか。

 宇多丸 カッコいいのが当たり前なものを、カッコいいものとして聴いただけなら、印象には残りにくい。

  そうそうそう。カッコいいものを当たり前に聴いてカッコいいなと思うだけなら、多分そんなに入れ込めないだろうというかね。障害が多いほど燃えるのが愛ってもんですよ!

 宇多丸 木村カエラとかもきっとそうだと思うけど、女の子がこの超カッコいい音楽に乗せてかわいく踊ってるとか、要するに、アイドルでしか表現できないところがあるからアンテナに引っかかったんで、単にカッコいいハウスミュージックやクラブミュージックが聴きたいんだったら、別にそんなのはほかにいくらでもあるわけだと。

  そうなんですよ。

 宇多丸 アンダーワールド(英国の男性テクノユニット)でいいわけ。ハゲのおっさんがこうやって踊ってればいいわけ。

  ハゲのおっさんがやるよりはかわいい女の子がやったほうが多分、アンダーワールドももっといいアンダーワールドになります。だから、いいアンダーワールドがPerfume(笑)。

 宇多丸 Perfumeはアンダーワールドに勝った!(笑)

  そうそうそう。アンダーワールドのパクリだと言われてる曲も確かにあるんですけど、でも、単にアンダーワールドをパクッて女の子にやらせただけではPerfumeにはならないですからね。やっぱりそれは彼女たちの持ってる声質などが決め手になっている。今、Perfumeの亜流みたいなものも若干出つつありますけど、トラックがほぼ同じに作れても、どうにも声質が音楽に合ってなかったりするんですよ。かしゆかの声質が非常にプラスチックで、Perfumeの世界観にものすごく合ってるんですけど、それだけだと多分、単なるオシャレなものになっ
てしまう恐れがある。それで、その中にちょっと異物な感じの、若干もうちょっと人間味を感じさせるような声を持ってるあ~ちゃんやのっちの声が入ってくることによって、なんかバランスがよくなってる。

 宇多丸 バランスはどんどんよくなってますよね。多分中田さんも迷ってた時期はあると思うんだけど、ものすごいクラブミュージック方向にガーッと振り切るとこまで振り切るかなと思ったら、意外とやっぱ3人の声の質とかも考えたプロデュースになってきてるから、そこはどんどん精度が上がってると思うし。

  Perfumeのボーカルって、AUTO TUNEっていうパソコンの録音ソフトの機能を使ってるんですよ。本来ズレた歌の音程を補正するための機能なんですが、それを過剰にかけると歌声がロボットが歌ってるように震えます。だれが歌っても同じに聞こえそうなもんですけど、実際にはそうじゃなくて、やっぱり地声の魅力という部分は最終的に残るんですよね。それが亜流みたいなものが出てきたときに、ちょっとわかった。

 宇多丸 なるほどね。

  あとはやっぱりライブを見て、みんなやられちゃうんですよね。こんなにプラスチックな音楽をやってるにもかかわらず、出てきた女の子が全員バリバリに広島弁だというね。

 宇多丸 でね、あのもう天衣無縫という言葉がピッタリ来るしゃべりとね。事務所の規制というか抑圧みたいのをまったく感じさせない。で、それほど好き放題なことを言ってるのにもかかわらず、スレた感じが全然しないどころか、アイドル的としか言いようがない多幸感を醸し出せてるっていうのが、本当に驚異的なところですよね。これはもう、3人の持って生まれた資質と言うほかない。だから、中田さんのサウンドが作り上げた鉄壁の世界観の向うに、本人たちの魅力という、最終的に誰もタッチできない聖域が残る。これこそがやっぱり、要する
にアンダーワールドにアイドルソングが勝利し得る理由なんじゃないかと。

  本当は真実なんだけど言っちゃいけないことってあるじゃないですか。そういうことばかりを選んで言う(笑)。俺がまだ関わっていない頃、ファンの人たちにPerfumeのライブの印象を聞いたら、音楽もいいけどやっぱりしゃべりが面白いと。アイドルのライブでも最前列のほうって、けっこう押し合いへし合いになるんですね。そんなときに大手の事務所さんだったら、「怪我したら困るから1歩下がってください」ってアイドルのほうから言わせて当たり前なんです。でも、この子たちはそうじゃない。客席が押し合いへし合いで、最前列の人がもうお腹に柵が食い込んでるような状態になってるのを見て、あ~ちゃんが「大丈夫、我慢できるよ!」って励ましたっていう、ね。

 宇多丸 大丈夫じゃないよ!(笑)

  確かにそれって非常にファン心理をわかってるというか、そんなときに無茶言うなよってことじゃないですか。「下がってください」なんて言われても、下がれるわけねえんだから。だったら励まされたほうがいいですよね。でも、それは真実なんだけど、本当はアイドルの口から言っちゃいけない。

 宇多丸 あと、インストアライブでね、「いやあ、さすが新宿、カッコいいお客さんが多いですね」とか言っちゃう。ってことは、いつものお客はどうなんだっていう。

  そうそう。それまでずっと秋葉原でイベントやってきたからね。

 宇多丸 でも、秋葉原側の人も、それで全然いやな気持ちはしないでしょ。そこで例えば、80年代半ば以来空洞化する一方のアイドル的ファンタジーを、無理矢理この2007年に作り笑顔で演じられるより、はるかにさわやかですよ。ウソついてないぶん。

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 読売新聞の水曜夕刊に掲載されている新感覚カルチャー面。旬の人のインタビューコーナー「ALL ABOUT」を中心に、若きタカラジェンヌの素顔に迫る「タカラヅカ 新たなる100年へ」、コラムニスト・辛酸なめ子さんの「じわじわ時事ワード」といった人気連載に加え、2016年4月から、ポルノグラフィティのギタリストのエッセー「新藤晴一のMake it Rock!」、次世代韓流スターのインタビューコーナー「シムクン♥韓流」がスタート。オールカラー&大胆なレイアウトで紹介する2面にわたる企画ページです。

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