Pop Styleブログ

本文です
前の記事

Photo_8 第7章 サウンド

  Perfumeのトラックはテクノサウンドですけど、例えばテクノポップみたいなものって、アイドルの場合はこれまで、カンフル剤的に使われてきたんですね。ベタベタな清純派の路線から始まって、それで売れなくなってきたときに、「じゃ、ちょっとプロデューサー変えてみて、今風な曲にしてもらいましょう
か」となって、入ってくるのが今までのアイドルとテクノの関係だった。最初から一貫してテクノとしてプロデュースしてきたアイドルってほとんどいなくて、いてもマイナーだった。唯一、90年代に宍戸留美さんがやったぐらいかな、成功例としては。でもそれはワンプロデューサーで任されちゃって、要するに予算が少ないから、たまたまテクノになったっていう世界だったんですね。

 宇多丸 まあその基礎にはもちろん、80年代に、当時最先端だったテクノ~ニューウェーブ人材が歌謡曲界へ流入してアイドル全盛期の一端を担った、という歴史的記憶があるわけですが。ただ、メジャーデビュー以降のPerfumeは、80'sテクノポップっていうよりは、現在進行形のクラブミュージックにシフト・チェンジしましたけどね。ミックスやマスタリングの仕方がもう、完全にフロア向け。

  あれだけ低音の入ってるアイドルソングなんて本来ありえないですからね。

 宇多丸 DJやっていて、普通のJポップと一緒に混ぜてかけるときに、中田
ヤスタカのプロデュースのやつってさ、困りません? 音圧がすごすぎて。

  そうなんですよ。

 宇多丸 普通が100だとしたら、45%ぐらいにしないと音のガッツがあり過ぎて並べてかけられない。

  異常に音の厚みがありすぎるんで、ほかのものから浮いてしまうっていうところもあります。

 宇多丸 最高にいいスピーカーのシステムがないと鳴らしきれないくらい。普通のJポップだってパソコンから出る音を想定して作ったようなものばっかりの中でね。だから、AKBのその「マスタリングしてるの? これ」っていうペナペナさは、「別にパソコンで聴くんなら関係ねえだろ、おまえら」って感じなのかもね。

  (笑)まあ、あれは割り切ってますね、すごく。

 宇多丸 中田ヤスタカは、アイドルとかそういうものにまったく興味がない人でしょう。もっと言えば、Perfumeにすら多分そんなに興味がない。

  ないでしょうね。

 宇多丸 そういう、「アイドルってこういうもの」っていう思い込みがない人が作ってるからこそ、その世界を革新できたわけです。

  自分の作りたい音楽、アイドルにこんなことやらせたら面白いだろうな、というのが最初からあったんでしょうね。QJでも中田ヤスタカは「最初、事務所さんの意向を汲んで、ちょっとベタなアイドル風80年代テイストを入れときましたよ。でも、僕がやりたいのはそういうのじゃなくて、最初からやりたいことは決まってた」とやっぱり言っている。

 宇多丸 初めのうちのその折衷が、結果としてよかったところもあるけど。

  まあ、それもありますよね。最初からいきなりあの3部作的なものをやられても、多分だれも受け入れられなかったと思います。

 宇多丸 「リニアモーターガール」が最初だったら・・・。

  単発で終わっちゃった可能性はありますよね。カンフル剤って、やはり最初から打つには刺激が強すぎるからカンフルなんだろうし。免疫抵抗力をつけるには徐々に入れていくのが重要で。Perfumeは、最初広島の地方アイドルで、パッパラー河合さんがプロデュースしたいわゆる普通のアイドルソングから始まってますよね。それがいきなり切り替わって、「じゃ、クラブミュージックです、どうぞ」って言っても、本人たちにも身につかないだろうし、大人が勝手にプロデュースして入ったなっていう思惑を感じさせてしまって、入り込めなかっ
たかもしれない。 

 宇多丸 だから、その意味では、シフトチェンジが絶妙でしたよね。

  そうですよね。

 宇多丸 すべてのシフトチェンジが絶妙なんだけど、その絶妙さ加減をだれが匙加減してたかというと、だれも匙加減してない。

  コントロールしてなかったんですよ。

 宇多丸 だから、もう「神の見えざる手」としか言いようがない(笑)。いや、でもね、これってあながち冗談でもなくて、要は神の見えざる手=市場原理ってことじゃないですか。車でも家電でも何でもいいですけど、厳しい競争市場にある商品だったらどこでも当たり前にやっているであろう、ユーザーの意見も微妙に取り入れつつ、品質向上努力をする、みたいなことを、アイドルソングでちゃんとやってきた結果ではあるわけでしょう。その意味では、音楽業界は
ずっと、必ずしも健全な自由競争市場とは言えなかったかも知れない。それがネット時代になって、部分的にであれ自由市場に近い状態が現出したときに、まずその恩恵を受けたのが彼女たち、ということなんじゃないかと。逆に、これまでの閉じた市場に甘えたままの商品は、今後は駆逐されていくんじゃないですか、どんどんどんどん。

  けっこう今、Perfumeの音楽性が固定しつつあるじゃないですか。一度固定させてしまっていいんだけども、そうなると次のネタを求められるっていうのがありますよね。

 宇多丸 でもね、COLTEMONIKHA(中田ヤスタカプロデュース)のアルバムとか聴いてると、けっこう引き出しはある人ですよ。別に4つ打ちだけじゃないから。思ったより引き出しがある人だってのが最近わかってきた。

  とりあえずは、今の路線をどこまで引っ張れるかじゃないですかね。

 宇多丸 まあね。でも、成長してるし。だから、いい意味で同じ路線を成長させてると思うんですよね。「ポリリズム」は本当に見事。

  そうですね。あんなに素晴らしい曲になるとは最初はわからなかった。コンサートで初披露されたとき、いわゆるポリリズムになってる間奏部がなかったんですよ、まだ。

 宇多丸 最初の状態からまたどんどん作り込むんですよね。

  アイドルの中での禁じ手というか、アイドルに必要ないと思われていた音楽の手法を率先して取り入れている。

 宇多丸 そうですね。だって、そもそも歌じゃない部分が多いですよね、Perfumeの曲は。

  ボーカルのかわいさを売りにするのが、ある意味アイドルビジネスの本懐ともいえるじゃないですか。だけど、声にオートチューンかけて思い切りよく変調させちゃう。「ポリリズム」に至っては、サンプリングのような形でカットアップして聞かせてるっていう。反則だらけなんだけど、そこがまた痛快で。

 宇多丸 僕がよく言うのは、「コンピューターシティ」の歌詞で、なんでこういう音楽像にしてるかという説明にもなってるっていう。「全体は作り物です。でも、その奥にあるものは本物です」っていう説明を見事にしてて。中田さんって人はどこまで意識してやってるのかわんないけど、全部自分で作ってるだけのことはあって、やっていることに整合性がある。

  中田さんが商業作家としてうまいのは、いろんなプロデュース作品があるのに、ちゃんとそれぞれ独自の路線を持たせてるってことですよね。PerfumeにはPerfumeのオリジナリティがあって、他とはかぶってないのがすごい。

 宇多丸 うん。プロデューサーとしての確かな視点はすごく持ってる人だと思うんです。

  鈴木亜美に書いた曲もMegに書いた曲も、ちょっとずつ系統が異なっていて。

 宇多丸 そうなんですよ。プロデュースする相手によってアプローチをちゃんと変えてきてる。

  音色は同じ中田節でありながら、ちゃんとメロディラインのクセの持たせ方をちょっとずつ変えてるんですよね。

 宇多丸 一番ビックリしたのはやっぱり嘉陽愛子ですよね。ユーロで来るかって。そうなんだ、できるんだ、こういうのも、みたいな。

  ともすれば安っぽく聴こえるような音ではあるけど、アイドルソングとしてベストなアレンジでしたよね。作家性の幅の広さがわかる。プロデューサーって何々節を作るってところが先決じゃないですか。「この作家はこういう音楽を作る人だ」っていう独自の作風ができるまでがまず大変だと思うんですけど、それができたあとに、さらにそこにある程度幅を持たせるってことが非常に難しいことだと思うんです。かつてのプロデューサーでも、それができてきた人はやっぱり最終的に生き残ってきましたよね。1色しかできない人はやっぱり、その1
色だけが売り切れちゃったらもうおしまいみたいな。

 だから、そういう意味では1色しか作れない人じゃないから、Perfumeも今後の展開にまだ期待していいんじゃないかなとは思いました。「節(ぶし)」を持っていながら、その「節(ぶし)」の中にバリエーションを持たせられるというだけの才能を、ほかのプロデュース作品から感じたので。

 宇多丸 「セブンスヘヴン」(「ポリリズム」のカップリング曲)みたいなエモーショナルな曲も作れるし。

  ちょっと泣かせ物みたいな。メンバーに対してニッコリ笑って「こういうの好きっしょ」って言ったらしいですよ。狙いすまして作りましたよ、みたいな。

 宇多丸 いやな感じだ!

  いやな感じだけど、「ちくしょう、まあ、すごくいい曲だから、しょうがない」みたいなね。

 宇多丸 「残念ながらいい曲だ」っていう。

  「すいません、狙いすましてくださってありがとうございます!」みたいな。俺、1回だけ中田さんに会ったことあるんですけど、もう「ありがとう」しか言えなかったですね。「これからもPerfumeにいい曲書いてください。ありがとう」って。

 宇多丸 ああ、だから、これから望むことは、「中田さん、これからもPerfumeにいい曲をよろしく」ってことですよ。

  うん、それだけですね。突然、「プロデューサーが変わりました」って言われてもね。そういうのはだれも望んでないってことだけはわかってほしいですね。まあ、多分スタッフの方も、中田ヤスタカ以外はありえないとは思ってると思います。ただ中田さんの労働量からして、今Perfumeだけに取り掛かれないから、例えばほかの作家さんを今度アルバム作るときに入れちゃう可能性もなくはないんじゃ……

 宇多丸 ああ、それは違う!

  それが一番怖いとこです。

 宇多丸 それは全然違う。ここまで来たら、一貫した世界観でガッチガチに構築されたコンセプト・アルバムとかじゃないともう、誰も納得しないでしょう……まぁでも、ほかのアイドルだったら、そういうすべてを台無しにするようなディレクション、普通にありますからね。

  そこだけですね。中田さんの仕事量の多さがやっぱり今一番怖いところ。中田ヤスタカさんがあまりにもPerfumeで成功してしまったことによって、ほかの人からの依頼が来すぎて、Perfumeばかりに取り掛かれないっていう現状があるわけです。

 宇多丸 ただ、中田さん本人も、自分が完全にコントロールして作ったCOLTEMONIKHAとかcapsuleとは違うマジックがPerfumeに起きてるっていうのはわかってるだろうし。ただまぁ、マジックだけにコントロールできない、という問題もあるんだけど。とにかく中田さんは今、Perfumeでこそ勝負すべきですよ!

  なんだけど、オリジナルアルバムとか出してますからね。

 宇多丸 もうCOLTEMONIKHA、気合いの入ったアルバムでしたよ。いいアルバムだったなあ、くそう。

前の記事

 読売新聞の水曜夕刊に掲載されている新感覚カルチャー面。旬の人のインタビューコーナー「ALL ABOUT」を中心に、若きタカラジェンヌの素顔に迫る「タカラヅカ 新たなる100年へ」、コラムニスト・辛酸なめ子さんの「じわじわ時事ワード」といった人気連載に加え、2016年4月から、ポルノグラフィティのギタリストのエッセー「新藤晴一のMake it Rock!」、次世代韓流スターのインタビューコーナー「シムクン♥韓流」がスタート。オールカラー&大胆なレイアウトで紹介する2面にわたる企画ページです。

掲載紙購入方法
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30