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第6章 非擬似恋愛対象

  どこかで会った人がすごいイケメンだったとかカッコいいとか、普通に言ってますね。ただ、そこにセクシャルな感じがしないのは、この3人の才能ですよ。Photo_7

 宇多丸 人徳というかね。これは推測ですけど、ほかのアイドルに比べて、ファンが擬似恋愛の対象として捉えている比率が、かなり低いんじゃないかって気がするんですが。

  これには1つの契機があって。AKB48っていうアイドルの最終形態みたいなのが出てきて、いわゆるアイドルヲタからの一方的な恋愛感情の受け皿として一番優秀なものを作っちゃったんですよ。2005年ぐらいのときって、PerfumeからAKBに流れた人、実はものすごい多いんです。

 宇多丸 要は、擬似恋愛がしたい人はみんなAKBに行ったと。だって「会える」んだもんね。

  そう。週に8回公演していて、とにかくアイドルとファンの距離感が近い。擬似恋愛のツールとして優れてますよ。しかも、通ったら通った分だけ特典があるとか。

 宇多丸 覚えてもらえやすいし。

  そういう距離感が近いことを第一に考える人たちはみんなそっちに行っちゃったんです。ハロプロなどのアイドルの現場からも相当流れました。いろんなアイドルのライブ会場から、ヲタ中のヲタというか、もっともハードコアな客層がこの時期すべてAKBに流れたのはすごい。結果としてPerfumeを含めたどこのアイドルのライブ会場もヲタ濃度が薄まった。アイドルヲタ100%の環境の中に一般客が急に入ったら、アイドルよりもまず周りを見てしまって、「この人たちとは一緒にされたくない」って思うと思うんですよ。

 宇多丸 でも、アイドルヲタって、世間からちょっと白眼視されているというのも含めて、あえて自分を差別化しているっていうところは確実にあるでしょ。

  そこも含めて楽しめますよね、今となっては。自分もアイドルヲタだからわかりますけど。

 宇多丸 その意味で、AKBというシステムの割り切り方は、やっぱりすごいはすごいですよね。

  あれはあれで進化ですね。アイドルヲタを極めた者の終着の浜辺というか。たまたま曲に興味がなかったので、俺はそこに入っていけなかったんですけど。

 宇多丸 AKBのアルバムとかはある意味Perfumeの真逆で、「これ、ちゃんとミックスとかマスタリングしてる?」っていうような音質だったりするもんなぁ。

  そこも好みが分かれるところでしょうね。で、AKBにファンの一部が流れていった時期は、Perfumeの歌詞やタイトルの世界観から恋愛濃度が一気に下がっていった時期でもあるんですよね。「リニアモーターガール」の歌詞は特に記号的な言葉が羅列されているだけで、極めてアイドル歌謡曲的じゃない。ウェットに恋愛を歌われているわけじゃないから、女性ファンも入ってきやすい。

 宇多丸 「いわゆるアイドルソング」的な恋愛のイメージって、今の女の子だったらもう、鼻白むだけだと思うんですよ。そういう意味では、Perfumeの歌詞にはそういう子ども騙しの要素はない。いかにもおじさんが考えましたってようなウソくさい若い女の子像とかは絶対出てこない。

  恋愛のニセモノとして作りましたよって作り手側が言い切っちゃってるようなものを、長きに渡ってそのまま受け取らなきゃいけなかった。ともすればユーザーがバカにされてるような状態がけっこうまかり通ってきたのが従来のアイドル歌謡。

 宇多丸 本当そうです。

  我々がアイドル歌謡曲に求めてきたものって、実はもう長いこと擬似恋愛とイコールじゃなかったはずですよね。例えば3部作と言われたものの近未来的な世界観だとか、旧態のアイドル然としたものじゃないアイドルの進化形を提示してくれたと思うんですよ。そういう意味で、Perfumeは好きだと言っても恥ずかしくないアイドルなんですよね。

 アイドルが好きだと公言することって、実はすごくハードルが高いじゃないですか。まあ確かに、それを乗り越えてアイドルヲタになるって楽しみはありますけど、それは世捨て人の嗜みで。世間一般の人たちがアイドルソングに入っていくためには、どんどん擬似恋愛的なものと違った表現を打っていかないといけないというか。

 宇多丸 かわいいことイコール、別に擬似恋愛である必要はないんですよね、まったく。

  ええ。例えばかわいい女の子を見たからといって、すべての女の子を好きにならなければいけないか、ヤりたいと思うかっていったら、そうじゃないですよ!!

 宇多丸 全然違いますよね。

  単純な性欲の対象にしたいなら、今時アイドルである必要はないわけですよ。だからアイドルの歌も別に性を想起させなくていいし、その方が間口が広い。

 宇多丸 一方で、アイドルが盛り下がってきた要因の一因として、AVの浸透というのもあると思うんです。

  そうですね。

 宇多丸 擬似恋愛の終着点としての性欲処理ってことで言えば、今やAVやグラビアが十分にその役割を果たしている。だから、アイドルが担うべきは、実は全然そこじゃなかったってことですよね。

  清楚っていうことがもうウソとしてしかまかり通らないと思われてたわけですよ。でも、そうじゃなくて、清楚っていうのは単純に、セクシャルな匂いを感じさせなければそれでいいということでもありますよね。じゃあ、セクシャル以外の何を匂わせるんだってことです。アイドルって女の子がやってるものだからというだけで、セクシャルなのものを売りにさせられちゃう。しかも、年齢が重なってくると、成長の証として性を売り物にしなきゃいけなくなっちゃうんで
すね。

 宇多丸 それがおじさん発想の限界ですよね。

  実はもう誰も、アイドルポップスの中に性的な要素を求めてなんかいない。できるだけそういったオヤジ目線の性的なものから遠ざかりたいからこそ、アイドルポップスを聴いてる部分はありますよ。

 宇多丸 世俗的なところを超えた多幸感を味わいたくて……

  そうですね。もうだから、言ってみれば宗教的な法悦とかに近いですよ。俗世の色や欲に疲れた者の心を洗ってくれるためのものっていうんですかね。すごく満ち足りた気持ちにはなりたい、けれども、それは別に率直な欲望を満たすだけではないという。

 宇多丸 これは本当、改めて声を大にして言っておきたいですね。アイドルに擬似恋愛とかっていうのは、別に本質じゃないって!全然。

  本質じゃないし、実は本質じゃないことはみんなが気づいてたはずだと。それが細分化されていったことによってよくわかったというところはあります。だからね、仮にPerfumeも彼氏ができたりとか、そういうことが写真週刊誌とかに取り上げられたりしたときに、もしもファンが揺るがなかったら、これは本当に本物だという言い切りもできるはずです。

 宇多丸 ファンも問われる瞬間ですけどね。

  音楽さえちゃんとしていれば、そこの部分は揺るぎないものであると信じている。まあ、そこまで言い切っちゃえるかどうかわかんないけど、それが本物かどうかというのは、そのとき問われるかもしれない。

 宇多丸 そこはファジーでもありますけどね。ただやっぱここ最近の傾向としてはさ、そういうのがバレる、そうするとファンがだれよりも叩くっていうのがあるから。そこでPerfumeファンは、さあ、じゃあ、どういう質なのかっていうのを問われるところでもあるだろうし。

  いろんな人が今入ってきてますからね、叩く人も出てくるでしょう、きっと。でも、叩く人は絶対的に少ないと信じています。

 宇多丸 うん。Perfumeのファンに関しては、俺もそんな気がします。

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 読売新聞の水曜夕刊に掲載されている新感覚カルチャー面。旬の人のインタビューコーナー「ALL ABOUT」を中心に、若きタカラジェンヌの素顔に迫る「タカラヅカ 新たなる100年へ」、コラムニスト・辛酸なめ子さんの「じわじわ時事ワード」といった人気連載に加え、2016年4月から、ポルノグラフィティのギタリストのエッセー「新藤晴一のMake it Rock!」、次世代韓流スターのインタビューコーナー「シムクン♥韓流」がスタート。オールカラー&大胆なレイアウトで紹介する2面にわたる企画ページです。

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