佐渡・岸田対談 の続き【第九】

6月22日の「ALL ABOUT 佐渡裕」。いかがでしたでしょうか。くるりの岸田さんとの異色対談は、初めての試みでしたが、ロックバンドの岸田さんのクラシックへの思い、指揮者の佐渡さんの意外な一面がのぞけたのではないでしょうか。紙面で載せきれなかった対談の続きを、このブログで少々公開します。

【ニ短調とベートーベン「第九」】

ベートーベンの「第九」が大好きだという岸田さん。12月に東京フィルとの「第九」公演が予定されている佐渡さん。最初、調性についての話が、佐渡さんの「第九」講座へと発展しました。ぜひ、第九のメロディーを振り返りながら、または聴きながら、読んでいただければ。

佐渡 Dメジャー(ニ短調)は、人の喜びを表す調整なんです。ベートーベンの第九「喜びの歌」やハレルヤコーラス。逆さまにDマイナーは、人の死、あるいは追悼をする、鎮魂曲、地獄を表す。全く正反対の調整として使われますね。

岸田(以下K) すごい分かりやすい。なるほど。第九の二楽章って二短調じゃないですか。パッパラパララパパラパララ♪ って始まって。その後、長調になって、タタラタララタラ♪ って、あそこですぅ~ごいホッとして。ホッとしたいから我慢して聞くんですよ。そこは、カラヤンのはちょっとテンポ速いなと思う。バーンスタインのが好きなんです。なるほど地獄かもしれませんね・・・ニ短調。いい話聞いたなあ。

佐渡 第九って、本当によく出来ていて。何かに取り憑かれてあの作品を書いていったんじゃないかっていうぐらい、ものすごい用意周到なんです。まさに、「職人ベートーベン」で、どういう技がそこに残されているかをみると、すごく面白いですよ。第一楽章は、パパーン、パパーン、パパーン♪ 次の下の音に行くとき、いつも5つの音の距離と、4つの音の距離の組み合わせなんですね。いつも、1オクターブの真ん中の音を真っ二つに切るように作られている。で、ちょっとだけ登場するのが、ティーララティーラララー♪ というすごい美しいメロディー。3度、いわゆるドミソですね、一番ハモったときに心地よいところを一瞬鳴らすんですよ。でも、現実は真っ二つに刻んだ音ばっかりで作られているんですよ。

岸田 そう、すぐに断絶がありますよね。

佐渡 第二楽章は、真っ二つに切った第二楽章に対して、オクターブの両サイドなんです。パンパパン、パンパパン、パンパパン♪ つまり最も肉体的な音楽です。ジャンプしているようなエネルギー、あるいは、ダンス。ここで、ティンパニが、タントトンタントトンタントトンタントトンタントトン♪ というふうに活躍するんです。一楽章の精神的な苦しみに対して、二楽章ていうのは肉体的なんです。そしてさっき、岸田さんが言った明るいところが来る部分というのは、隣同士の音にすごいこだわってますね。

岸田 ああー。

佐渡 で、ラッパパパパパパパ パーラーラータララッパッパッパパン パーラーラータララッパッパッパパン♪ って木管楽器が来るんですけど、これは一楽章で一瞬出てきた、ティーララティーラララーター♪ と全く同じある種のコンセプトとして登場してくるんですよ。一瞬、憧れのように。

岸田 憧れ。そうですよね。

佐渡 で、第三楽章に関しては、いきなり隣同士の音から始まるわけですよ。

岸田 ああー。

佐渡 おじきをしているかように。もうすぐ隣の人に話しかけているように。ターラーリラリ ターラーリラリ ラーラーターラーラーターラー♪ で、そういう意味では、三楽章全体がすごく穏やかで。一楽章、二楽章で出てきた優しい音楽は、長くなく終わってしまうんですけど、三楽章では、それの連続をどーんと聞かせるわけですよ。それはもう美しい楽章。ベートーベンがラブソングを書いているぞって感じですよ。それで、四楽章で一~三楽章の回想を登場させて、初めて「喜びの歌」っていう3度の関係がいかにシンプルで美しいものかっていうのに戻るんです。四楽章は、人がみんな、家族・兄弟・友達になろうというメッセージがあるんですけど、すごくシンプルなんですよ。いや、熱く語ってしまいました。

岸田 いや、すごいうれしいです。聞き所だらけですよ。ほんまに第九好きなんですよ。よく、第九好きな人同士で、ずっと頭から歌ったりするんです。

★佐渡裕さんと、今年創立100周年を迎える東京フィルハーモニーによる「第九」演奏会が、12月に東京近郊で行われます。
問い合わせは、チケットスペース(03-3234-9999)。
詳細情報は、http://ints.co.jp/sado-daiku2011/index.htm