絶好調連載も第3回を迎えました。今回の渡辺明竜王と柴田ヨクサルさんとの対局で使われている将棋盤と駒、実は高額な品物なのです。しかも、その駒には、「ハチワンダイバー」に敬意を表した将棋連盟の粋な計らいが秘められていたのです。
上手 竜王 渡辺 明 (飛車落ち)
下手 柴田ヨクサル
平成20年4月24日 於・将棋会館「香雲」の間
第2図からの指し手
▲6五銀△同 銀▲同 歩△7五歩▲6四歩△同 金▲6八飛△6五歩▲5六歩△7三桂▲5五歩△7六歩▲2五歩△3三桂▲5六金△8五歩▲3六歩△8六歩▲同 歩△2五桂▲4八飛△6七銀▲5七金△7七歩成▲同 桂△7六銀成▲8五桂△同 桂▲同 歩△8七歩▲7九角△5五金▲2六歩△6六歩▲2五歩△6七歩成▲3五歩△7五角▲4七金寄△7八歩▲3四歩△7九歩成▲2四歩△5七と▲2三歩成△同 玉▲2四歩△同 玉▲5七金△同角成(第3図)
★ヨクサル氏、逸機
さて、今回の対局に使われている将棋盤と駒だが、これらはプロの公式戦で使うものと同じで、盤は宮崎・日向産の本榧(ほんかや)、厚さ6寸の逸品。伐採した原木を何年も寝かせて乾燥させてから加工しないと後で盤面に歪みが生じるため、手間とコストがかかるのだ。市価200万円ぐらいだろうか。
駒は80万円前後と見られる。昔は櫛などにもよく使われ、「木の宝石」と呼ばれる柘植(つげ)で出来ている。東京・伊豆七島の一つ、御蔵島産で、海 風に耐えながら育った木が何とも言えない木目を生みだし、人の手によって使い込まれると飴色に光ってくるのが特長だ。
この駒は、大正13年に発足した日本将棋連盟が3年前に盤寿(盤の升目が9×9の81にちなみ、81年を一区切りとする将棋界の慣習)を迎えたのを記念して作った「81周年記念駒」。ハチワンダイバーに敬意を表する駒を使うあたりが連盟事務局の粋な計らいだ。対局前、渡辺竜王も「ふだんの公式戦で使っている駒よりいいですね」と苦笑した。
ヨクサル氏がチャンスを迎えた第2図。ここで▲6五銀と出た手がヨクサル氏の筋の良さを示す一手だったが、これは渡辺竜王の待ち受けるワナだった。△6五同歩と取ってくれれば▲7四飛と一方的に飛車をさばいてヨクサル氏が優勢になるが、本譜の△6五同銀から△7五歩と飛車道を止められては失敗。ヨクサル氏が築き上げてきた優位が一手で吹き飛んだ。
第2図では▲7五銀と平凡にぶつけ、△同金▲同飛△7三歩に▲7八飛とじっと引いておけば「指す手に困った」と渡辺竜王。これならヨクサル氏が優位を維持できた。
専門的には第2図で▲9六歩とじっと突き、次に▲9七角と大駒である角の活用を狙いながらチャンスを見て▲7五銀のぶつけを狙うのが最善手だが、それは流石にプロレベルの話なので難しかったか。
とはいえ、本譜でヨクサル氏が不利になったわけではない。▲6八飛から▲5六歩と中央に勝負のアヤを求めるのが、勝負師らしい指し回し。渡辺竜王も時折、頭に手をやり、なかなかやるな、という表情。
本譜は渡辺竜王が左辺を食い破り、ヨクサル氏は玉頭から激しく攻めて迎えた第3図。ねじり合いになればプロが力を発揮する。形勢は竜王がやや有利。苦しくなったヨクサル氏の顔と将棋盤の距離がどんどん近くなっている。ハチワンダイバーの主人公、菅田のように81マスの盤面の中に潜ろうというのか。
第3図でやおら飛車をつかんだヨクサル氏。ここで、竜王を驚嘆させる勝負手を披露する。ハチワン流の次の一手は? (西条耕一)
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