宇多丸×掟対談【第2章 ブレない】

第2章 ブレない

 宇多丸 僕が彼女たちを「アイドル界最後の希望」って言い出したのは、2005年ですかね。その年、アイドル界的にもいろいろありまして。ああ、やっぱり女性アイドルっていうシーンは、本質的にはこの二十年間ずっと、いわゆる冬の時代のままだったんだな、というようなことを改めてひしひしと感じるときで・・・。ただ、そんな中でも、作品的なクオリティとかコンセプトとかをブレさせずに、地道にとはいえやり続けてる人たちがいるんだから、ここがこんなに誠実にやっててそれでもダメなんだったらもう、それこそこのジャンルは本当にお終いだろう、というようなことを連載に書いたわけです。Photo_3

 いきなり売れたわけでもないのにブレずにいるのは、本当に難しいことなんです。普通は、売れなかったらとりあえず路線をガチャガチャ変えるわけですよ。Perfumeの場合、「Quick Japan」のインタビューで中田ヤスタカさんもおっしゃってますけど、誰かが強い意思を持って「このコンセプトで行く!」ってやっていたわけでもなさそうなのに(笑)……。よく続いたなと、不思議です。

  アイドルポップスでなくても、CDってまず売上げですよね。そのビジネスがビジネスとして成立してないのに、それでも同じ路線で続けていくって、これはもうある一定の信念を持ってないと絶対できないことで。

 宇多丸 そうそう。よっぽど絶対これが正しいと思ってなきゃおかしいはずなんですけどね。アイドルに限った話じゃなくて、僕らはある意味同業者なんで、そこの難しさは骨身に染みてわかってる。

  でも、当時のPerfumeは決して結果を出してるわけじゃなかった。それなのに、なぜ同じ姿勢のまま持続してこれたんでしょうね?

 宇多丸 まあ、いろんな・・・、単に放置されていたからかも(笑)。

  まあ、会社に体力があって、現場スタッフに好き勝手にさせてたっていう状態だったんでしょうね。

 宇多丸 ただ、評価は高いっていうところは多分伝わってたと思うんですよね。

  うん。多分この路線が間違いなく支持を得てるということは、会社側にもなんとなく伝わっていたんでしょうね。そこでアミューズさんがすごいのは、ファンの声を聞く耳を持ってたということで。芸能事務所は往々にして、ファンや外野の声なんて聞き届けないもんですよ。それがPerfumeのスタッフは違っていた。ちゃんとファンの側からのフィードバックを聞き届けて、ある一定の信念の材料としてきたからこそ今日のPerfumeがあるんだと思う。

 宇多丸 PVとかも、ずいぶん前から、お金なんかそんなにかけられないだろうに、すごくちゃんとしたものを作ってるんですよね。あれもね、何なんだろうと。普通、ハロプロだってショボいのはいっぱいあるわけですよ。アートディレクターの関和亮さんですか、この人が一番ある意味、PerfumeのPerfumeらしさを意識的に演出してきた人かもしれないですね。

  中田さんよりも世界観というものを意識してやってる。

 宇多丸 中田さんのある種投げやりさに対して(笑)。

  PV作家は整合性を求められますからね。トータル的なビジュアルイメージを作らなきゃいけないから。 

 宇多丸 この人はアートディレクターとしてジャケ絵も全部やってますからね、整合性も出しやすい。普通はアイドルのCDって、曲調とジャケットとPVが全部バラバラなんてことはザラにあるでしょ。

  リリースを急ぐあまりジャケットが先にできちゃって、曲が後からできるなんてこともあるわけです。結果的になにがやりたいのかボヤケちゃって損をするというパターンは、アイドルにはありがちですよね。

 宇多丸 でも、それってね、商品を作る姿勢として、本来なら許されない怠惰ですよ。だからPerfumeのやり方が、実は当たり前とも言える。

  当たり前のことをやり続ける難しさに耐え切ったんですよ! これは、もう偉業としかいいようがない。

 宇多丸 だって、最初のインディーズデビューから5年ですよ!

  アイドルが5年も売れない状態のままで活動し続けるなんて、本来不可能なんですから!

 宇多丸 ただ生き残るというだけでもありえないのに。

  そんなに商売になっていないアイドルに、定期的にリリースさせ続けてくれるなんて、大手の事務所さんにしろ、例えばインディーズでやってるようなスタイルにしろ、まずありえませんよ。アイドルって普通はデビューに一番力が入っていて、その後売れ行き次第で活動規模が決まっていきますよね。Perfumeの場合、広島の地方アイドルのようなインディーズ形態から小規模に始まって、その後全国流通のインディーズっていうか、「モノクロームエフェクト」の頃は全国のTSUTAYAを中心とした状態の全国流通だったりするんですけど、そのあとに3部作(「リニアモーターガール」「コンピューターシティ」「エレクトロ・ワールド」)と言われる完全なメジャーリリースになりっていう、通常のアイドルの売り方と逆の形態で、ちょっとずつステップアップしてきているんですよ。これはもう、本当にありえないことですね。

 宇多丸 前代未聞ですよ。

  「スウィートドーナッツ」とか、もっと遡って「OMAJINAI☆ペロリ」(広島限定インディーズ1st、02年3月)とか、あの段階でお金をかけてドーンと行かせることは一般的なアイドルでよくあることですよ。だけど、曲が進むに連れて、ちょっとずつ事務所側の本気度が上がってきてるってことはありえない。売上げや世間的認知度がある程度上がってきたこともあるかもしれませんけど、本当に真逆ですね。アイドルというより、バンド的なセールスプロモーションのあり方だとは思うんですが。しかし、よくこれだけこらえてくれたなと思いますよ。

 宇多丸 ホント、よくぞ!っていう感じですよね。