「メイド」の魅力とは

 「コミックビーム」(エンターブレイン)という月刊漫画誌で連載されていた森薫さんの漫画「エマ」が、きょう発売の5月号で最終回を迎えました。19世紀のイギリス・ヴィクトリア朝時代を舞台に、成功した実業家の跡取り息子であるウィリアムと、彼の恩師である女性に仕えていたメイド・エマとの出会いから始まり、2人の身分差を超えた許されざる恋愛を計52回にわたって描いてきました。

 2人のみならず、ウィリアムの可憐な婚約者や彼女をこよなく愛する姉、ぶっきらぼうなようでいて何かと2人の世話を焼く修理工のおやじ、ウィリアムの友人であるインドのマハラジャの王子などなど、各所に個性的な人物を配し、細部に至るまでの緻密な描写と相まって、まるで実際にあった出来事をそのまま切り取ってきたかのような趣と風格さえ漂わせた堂々たる大河ロマンスでした。何より、作者の森さんがヴィクトリア朝の文化風俗、とりわけメイドに深い思い入れと愛情を抱いている様子が手に取るように伝わってくるのが楽しくて。終盤の激しい展開にはハラハラしましたが、大団円とは言えないまでも前向きな終わり方に安堵しました。

 「エマ」を読んで痛感するのは、当たり前のことではあるのですが、メイドという存在はヴィクトリア朝にあってこそ、その真価を発揮するということです。一昨年の「電車男」のヒット辺りから「メイド喫茶」のブームが起こって、店舗も秋葉原を中心に林立。一時期はテレビで毎日のようにメイド服を着た女の子が「お帰りなさいませ、ご主人様~」などと言っている姿が見られたものですが、個人的には正直言ってちょっと辟易してました。メイドがご主人様と一緒に遊びますか? ネコ耳つけますか? 「萌え~」なんて言いますか? それじゃ単なるコスプレ喫茶と何も変わらないじゃないですかッ!

 もちろん、そういうお店の楽しさを否定するつもりは毛頭ありません。しかしながら、客が「ご主人様」を演じ、店員は「メイド」を演じるという密やかで一時的な共犯関係と、そこから生じる穏やかで厳かな時間と空間こそが、メイド喫茶の本来的な魅力だと思うのです。エマの清楚さ、素直さ、かわいらしさに思いをはせつつ、ヴィクトリア朝時代の雰囲気を疑似体験したい――。私が求めるのは、そんなメイド喫茶です。

 きょう発売の夕刊には、「Pop Style」の2回目が掲載されています。機会があったらどうぞご覧になってみて下さい。あす13日には、「Pop Style」と「TOKYO★1週間」が同じテーマのデートコースで競い合う「恋ナビ対決」の初の判定結果が、石田純一さんからこのブログで発表されます。どうぞお楽しみに~。