長井好弘編集長のうたた寝帳

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浅草寄席日記・4日目

浅草寄席日記・楽日

2008年9月 8日

8月25日(月)
「禁演落語の会」の解説も今日で5日目。めでたく(?)最終日を迎えた。
夕方になると浅草演芸ホールに通うという5日間で、昼間、何の予定もないのは今日がはじめてである。
ん?
まてよ。
どうして平日なのに、昼間の予定がないのかと考えて、今、ぼくは夏休み中であることを思いだした。
昼間会社に行かないから、暇なのである。
明日からゆっくり休めばいいじゃないかとはいうものの、CS放送「おとな館」の収録やら、落語会関係で頼まれていた原稿の仕上げやら、何かと雑用が多い。
そのうえ、毎日天候が不純だから、よし、何かやろうという気が起きない。
結局、今年の夏休みは、どこへも出かけず、大したこともせず、細かな仕事をしているうちに終わってしまうのだろうなあ。
あああ、なんだかなあなどとグズグズしているうちに夕方になってしまった。
時間が半ちくじゃあしょうがないやと、とっとと支度をして(といっても浴衣は寄席の楽屋に預けっぱなしなので手ぶらなのだが)、いつもより早めに浅草へ出かけた。

今までは間に合わなかった、早い出番のナイツの漫才を袖で聞く。
花輪クン「久しぶりに家に帰ると、母親が言うんだよ。おまえはせっかく大学まで出してやったのに、何が漫才だ! 何が浅草演芸ホールだ!」
土屋クン「あの、浅草演芸ホールは関係ないんだけど」
この間、余所で聞いたときとほぼ同じネタだ。「浅草演芸ホール」のところは「新宿末広亭」だったけど。
花輪クン「それで、隣の部屋では、親父が怒って、立ち往生してるんだよ」
土屋クン「それ、仁王立ちっていうんじゃないか?」
花輪クン「その奥で、じいちゃんが大往生して・・」
土屋クン「おいおいっ!」
客がオロナミンCを2本、高座に置く。常連さんかな。
ウケてるウケてる。
喝采の中、ナイツが高座を下りようとすると、前の席のお客さんが、彼らに差し入れを渡している。
よくみると、オロナミンCが2本。
ぼくは目を丸くしてみていたが、周りの前座たちは「それがどうしたの」という顔をしているだけ。
もしかして、いつもドリンク差し入れる常連客なのだろうか。

それにしても、今日は楽屋にやたら前座がいるではないか。
「今日は6人います。なんっっっっっっにもやってませんけど」と立前座のA太郎がいう。
ううむ。いかがなものか。
前座が全然入ってこなかった数年前よりはいいけどね。
おや、あっぷるさん以外にも女性の前座がいるぞ。
「春雨や雷蔵の弟子で、風子と申します!」
見た目は大人しそうだが、てきぱきと仕事をこなしているではないか。

今日は時間に余裕があるせいか、なんとか帯もきまって、さっそうと、いや、着物の前裁きになれていないので、実際には、ヘコヘコと高座に出る。
しばらく話していると、
上手側の客席に、以前、ぼくが北千住の文化センターで落語講座をやっていたときの生徒さんを2人発見。
禁演落語の解説をしながら挨拶するわけにもいかぬなあ。
てなことを考えながら2人の法をチラチラ見ていたら、あれれ、その隣にも見たことのある顔が。
こちらは生徒さんではなく、デスクさんである。
会社のS部のFデスクが見に来てくれたようだ。
Sさん、寄席に来る趣味があったっけ?それとも、会社にいられない事情が・・・。
てなことを考えながら(この部分、数行前のコピペです。申し訳ない)、3人の方をチラチラ見ていたら、ぬぬぬ、そのまたとなりのお客さんも見たことがあるような・・・。
誰だろうかと視線を送るのだが、そのあたりをしっかり見ようとすると、脇の照明が目を直撃してまぶしくて仕方がない。
そのあたり、なんだか関係者だらけのような気がするけれど、よく見えない。
うー、気になるなあと思いながら喋っていたら、あっという間に持ち時間が過ぎてしまった。
今夜は少しだけ客席に気を取られていたぶん、話に余計な力が入らず、意外にすらすら喋ることができた。
何が幸いするか、わからないものである。
しかし、いったい何人、知り合いがいたのだろう。
ま、いいや。
だれか差し入れでも持ってきたら聞いて見よう。
そう思うって待っていたが、この日はだれからも差し入れはナシ。
あれ、誰もいなかったのか?

楽日(ぼくにとっては最後だが、「禁演落語の会」自体はまだ続く。千秋楽は30日なのだ)の禁演落語は、花助さんと笑松さんの二ツ目コンビだった。
花助さんの「ひねりや」を聞くのは初めてらしく、トリの遊三師が興味津々で聞いている。
やる前は「へたくそだったら下駄投げるぞ」と花助さんを脅していたのだが、聞き終わった後は「いいねえ、さすが雷門だねえ」とベタ褒めである。
「御茶屋でのお膳の位置は、もっと低くなきゃダメだよ」とアドバイスもしている。
花助さんも、下駄を投げられず、ホットした様子だ。
「いやあ、今日は本当にいいお客さんでした。温かく笑ってもらって」
「いやいや、あんちゃんの腕がいいんだよ」
遊三師に褒められた花助さん、喜んでいいのかどうか、下を向いて困っていた。
今日の客席はたしかにいい雰囲気で、場内に笑いが絶えない。
だから僕も、我ながらきっちり出来たのだろう。
お客さんが載せてくれるのである。
「ながいさんも、これだけネタが出来てるんだから、10日間やればいいじゃない」
と夢太朗師が世辞を言ってくれるが、10日連続はちょいとつらい。
夏休み全部、演芸ホール通いというものいかがなものか、である。

前座連中とお囃子さんたちが、遊三師の前でお礼を言っている。
今日は興行の中日だから、トリの真打ちから祝儀が出たようだ。
ぼくはというと、前座さんがたたんでくれた浴衣を抱えて帰り支度だ。
今夜浴衣を忘れると、また明日、用もないのに来なくちゃならない。
楽屋の師匠連に挨拶して、引き上げだ。
今年は5日間、打ち上げも飲み会もなかった。
周りを見渡すと、ぼくより若い人がけっこういる。
ぼくもそろそろ、こっちから誘わなきゃならない年になったようだ。
禁演落語に挑戦した若手たちに「今度おごるからね」と約束して、楽屋を後にした。
外は、今夜も雨。
ぼくの夏休みは、あと数日残っている。

浅草寄席日記・4日目

 ラーメンから餃子まで(?)、古典芸能と食の方面に偏りまくった知識と実戦経験と妄想を持つ長井好弘・編集局編集委員がつづる、疾風怒濤の日常がここに! 取材・執筆の裏話、愛すべきY社の人間模様、本日の昼飯メニューなど、扱うテーマは行き当たりばったり、じゃなかった、バラエティ豊富。原稿は寝て待て!!

長井好弘

 編集局編集委員。18年に及ぶ日曜版編集勤務を経て、09年2月から現職。取材テーマは「大人の遊び一般」。落語、講談、文楽、歌舞伎と鰻の蒲焼きを好む。トマトとブロッコリーと高い所はダメ。『新宿末広亭「春夏秋冬」定点観測』『末広亭のネタ帳』(アスペクト)、『寄席おもしろ帖』(うなぎ書房)など、寄席演芸に関する著作多数。

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