今回は、4月21日読売新聞夕刊の見開きカラー「popstyle」に掲載した、宝塚歌劇団雪組前トップスター、望海風斗さんの記事に盛り込めなかった話を、インタビュー形式でお届けいたします。
【退団公演のアドレナリン】
――東京公演の千秋楽の翌日はどんな感じだったんですか。
翌朝、とてもすっきり目覚めたんです。もっと昼まで寝て、もう起きられないよつらいよ、ってなるかと思ったら朝8時くらいにぱっと起きました。天気もよかったですよね。すごく気持ちのよい休日、みたいな感じです。まだアドレナリンが残っていたんだと思います。
――パワフルな舞台の余韻が残っていた。
そのアドレナリンが出たまま14日から「エリザベートTAKARAZUKA25周年スペシャル・ガラ・コンサート」の稽古が始まって、知っている方たちにお会いしたら急にすっと眠気が襲ってきたんです。ほっとしたんですかね、安心して。ちょっと落ち着いてきたのかもしれません。私自身はすごく元気で、5月5日(のガラコン千秋楽)までやりきらないとという思いが強くあります。楽しみにしてくださる方々がいらっしゃるから、それがすごく力となっていて、頑張ろうと思いますし、すぐに姿をお見せできるのは良かったかなと思います。
【集大成の3作品】
――宝塚時代にはたくさんの作品との出会いがありました。望海さんにとって集大成といえる作品はなんでしたか?
三つあって、一つは「ドン・ジュアン」。あれを演じられたときに変な意味じゃないですけど、「もうやりつくしたな。これで自分が退団しても絶対悔いはないな」というくらい全てをかけられた。これほど情熱を持って舞台に立つことができるんだというか、1回1回舞台に立つことで生きていることを実感できた。悔いないと思ったからこそもっともっといろんな作品でやれるんじゃないかな、挑戦できるんじゃないかなって思った作品です。
二つ目は「ONCE UPON A TIME IN AMERICA」。男役としての集大成だったなと思います。ずっと原作の映画も好きでしたし、自分が追い求めていたスーツ物で、にじみでるかっこよさ、哀愁が出せる作品に出会いたいと思っていました。まさかあの作品そのものをさせていただけるとは、思ってなかったので、本当にうれしかったです。(演出の)小池修一郎先生も念願の作品でしたし、お稽古場でも1日1日を大切に、無駄なく追究していきたい思いが強かったです。公演はコロナでできない日もあったんですけど、そういうのも含めてあの作品が千秋楽を迎えたときには、男役としてやりたかったことはやりつくしたなと思いました。
三つ目が退団公演の「fff」。「ONCE―」が男役としての集大成だとしたら、「fff」は宝塚人生においての集大成だったと思います。今まで積み重ねてきたことをお見せできたのは「ONCE」だったんですけど、「fff」に関してはいちばん最初に持ってたものを思い出さないとできなかった。自分自身が憧れて入った場所での色々な経験を走馬灯のように思いだしながら、ルートヴィッヒ・ヴァン・ベートーヴェンという人を演じていたような気がしますし、最後の白い衣装で歌うところは今まで頑張ってきてよかったなという思いで毎公演、緞帳が降りるのを見ていました。
――「fff」は望海さんだからこそ成り立つ作品でしたね。
最初、お稽古中は分からなかったんです。苦しむ役なのかなって苦悩を中心に考えていたんですけど、演出の上田久美子先生が「本来、持っているものをやってくれたらいいだけだから」としきりにおっしゃっていた。長い期間の積み重ねがあって、私は「こういう芝居です」というのがついてきたところがあるんですけど、そういうものを全てとっぱらって心のなかにあるエネルギーを毎日使ってやらないとできなかった。最後に初心に帰れたというか、昔の自分に出会えたような作品でした。
――コロナ禍があって、「ONCE―」では多くの公演が中止となり、つらい思いもした。でもそれをまた一つの宝塚での経験として受け止めた望海風斗さんと「fff」のベートーベンは重なる部分がありました。
でも「ONCE―」やるときにはもう「fff」の内容も決まっていたんですよね。上田先生は先を行っていたなと。先を見ていました。コロナがなくて、予定通りできていたらここまでの作品に仕上がらなかっただろうと思いますし、自分自身も持っていけなかったと思います。これをこのときにやろうと思って作って下さった上田先生は本当にすごいなと思いました。すべてを運命のものと受け入れて歓喜の歌にぶつけるルートヴィッヒに助けられました。本当に出会えて良かった。
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