Pop Styleブログ

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読売新聞水曜夕刊の新感覚カルチャー面「popstyle」。3月最初は、「マイブーム」「ゆるキャラ」という言葉を生み出した、イラストレーターのみうらじゅんさんを特集しました。みうらさんのスクラップ帳や収集物、原画などを大量に展示して、マイブームの全容を明らかにしようという大個展が、今月25日まで神奈川・川崎市市民ミュージアムで開かれています。紙面では特別拡大版で、展覧会に負けじと10個のキーワードを手がかりに、MJ(みうら・じゅん)ワールドの一端を紹介しました。

まず言えるのは、拡大版であってもみうらさんの全てを詰め込むことができませんでした。

みうらさん曰く「○○の全て」とかうたっていても、たいてい全てじゃないじゃないですか」。その通りなのです。ですから、紙面に入りきれなかったキーワードなどをpopstyleブログで紹介させていただきます。紙面+ブログ・・・そんな過剰さが、MJ的かなあ、なんて思いながら・・・。

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【マイブーム3か条】

バカ、エロ、かっこいい。

MJ「人が反射的に見てしまうものは、何のことかさっぱり分からないものだと思う。それって、『エロい』とか『バカだなあ』とか『かっこいいなあ』以上に自分の中に説明する言葉が見つからない。オレは何回かそういう体験があって、そういうものがマイブームになっている。たとえば、ブルース・リー。今でこそカンフー映画っていうジャンルが認知されているから、事前にこういうものだ、と理解してみることができるけれど、最初にブルース・リーを見た時、カンフー映画というジャンルがなかった。そんな状況で、いきなり『アチョー!』とか言われたら、もうわけわかんないでしょ。理解を超えていたけれど、見終わった後に出てきた言葉は『かっこいい』だった。エロもバカもそう。大好きとかそいうのではなく、衝撃を受けたモノはずっと気になっていて、それがマイブームになっていくのだと思う」

【ボブ・ディラン】

MJ「初ディランは中3の頃。ツェッペリンとかディープ・パープルとかハードロックがはやっていた。ディランを聴いて困ってしまった。彼の音楽のジャンルにあてはまる言葉がなかった。だから、オレはディランをひたすら聴くという“修行”をした。今までに何回も聴くやめてしまおうと思った。だってノーベル賞受賞後に出したアルバムは、フランク・シナトラのカバーアルバム。わけわかんないでしょ? 『ファンなら四の五の言わずに付いていくしかない』と悟った。軽く『ファンです』って言う人は、『初期の方が良かった』と軽く評論しちゃうけれど、汗をかかなければわからないこともある、とオレは黙ってディランに付いていきます」

「人はわけ分からないものに対して、ただひたすら付いていくか、賞を与えたりしてラベルを貼るかするんだと思う。だからディランはノーベル賞を与えられたんだと思う」

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【ゴムヘビ】

ヘビを模したゴム製のオモチャ。祭りや縁日など寺社仏閣の参道沿いの出店で売られている場合が多い。

MJ「黒くてとぐろを巻いているものが多かったけれど、後になって、とぐろを巻いていないモノも出てきた。『自由形』と呼んでいるモノ。昨今では、このゴムヘビを余り見かけなくなった。これは絶滅危惧種だ、ということに気づいた。オレが捕獲して保存すると自分自身に課した。参道の出店に発生するのは、ヘビとワニ。なぜ“生息場所”が参道なのか、ずっと疑問に思っていた。インド神話ではナーガというヘビの神様がいた。それが仏教に取り入れられ、仏法の守護神になった。ヒンドゥー教には、クンビーラというガンジス川に棲むワニを神格化した水神が登場する。それが、仏教にも入ってきて薬師如来十二神将に一つになった。宮比羅や金比羅というのは、クンビーラつまりワニのことなのです。ヘビとワニは実は宗教に絡んでいる。だから、ゴムヘビ、ゴムワニが参道に生息するのは正解なんです。最初は、そういう関係で売られていたんだと思いますが、だんだんその意味が忘れ去られてしまったんだと推測します」

「絶滅危惧種になったのは、ゴムヘビに有害物質が使われていることが分かってから。ただのヘビじゃなくて、毒蛇だった、と。今はもうその有害物質は使われてないと思う。だんだん見かけなくなってきたので、海外に探しに行った。そしたら、台湾の淡水のオモチャ問屋に売っていて、段ボールごと買った。空港の荷物のX線検査でヘビのシルエットが出て、『なんだ、これは?』ということになった。『ラバー・スネイク』と言ったら、ゴム(rubber)ではなく、恋人(lover)に聞こえてしまったらしく、ヤバイ奴ではないかと思われてしまって。箱を空けられて大量のゴムヘビが出てきたら、大笑いされた」

「ゴムヘビは、実際のヘビをリアルに模したものもあって、採取したモノだけで、120種類以上ある」

【民俗学】

伝承されてきた現象の歴史をひもとくなど、日常生活文化を対象とした学問。日本では柳田国男や折口信夫らによって完成されたと言われている。

MJ「ゴムヘビを長年大量に集めていると形状の変遷などが分かる。エロスクラップでは下着の変遷、ヌードグラビアの変遷が分かる。だから、オレが集めたりしているのは、民俗学なんですよ。100年後には。柳田国男が発見したことと同じように価値あることを発見していると思うけれども、まだみんなその発見に気づいていなかったり、理解していなかったりする。ちょっと早いんです。100年後には確実に民俗学として認められることを、100年早く見せられている、民俗学ビフォーを見せられているから、みんな、きょとん、となってしまう。民俗博物館に展示したら合点する人がいるかもしれない」

【ワッフル】

道路や線路沿いの崖崩れ対策で斜面をコンクリートで格子状覆った構造物。

MJ「正式名称があると思うけれども、ほとんどの人が知らないので、『ワッフル』と呼ぶことにしました。コケが生えていて、青ノリを振りかけたような和風のワッフルや、地形に合わせて凹凸のあるワッフル、板チョコのようにビシッとしているワッフルなどがある。オレは匠の技が感じられる凹凸のワッフルが、良いワッフルだと思う。車で移動中に『出た! 良いワッフル』とか、いとうせいこうさんとかを相手に言っているけれど、『もういいよ』と、あきれられている」

「『ワッフル』と名前を付けることによって、人は意識するようになる。今まで何ともなかった、というか無関心だったモノが、そうではなくなり、好き嫌いが出てくる。そういうもんです」

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 読売新聞の水曜夕刊に掲載されている新感覚カルチャー面。旬の人のインタビューコーナー「ALL ABOUT」を中心に、若きタカラジェンヌの素顔に迫る「タカラヅカ 新たなる100年へ」、コラムニスト・辛酸なめ子さんの「じわじわ時事ワード」といった人気連載に加え、2016年4月から、ポルノグラフィティのギタリストのエッセー「新藤晴一のMake it Rock!」、次世代韓流スターのインタビューコーナー「シムクン♥韓流」がスタート。オールカラー&大胆なレイアウトで紹介する2面にわたる企画ページです。

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