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(前回までのあらすじ)

 ハオランが働いているという六本木の雑居ビルに乗り込んだ健太たち。マリリンを1階に待たせ、健太と真治が向かった6階では、怪しそうな人物が行き交っていた。店内に踏み込む算段をしていた2人だったが、大柄な丸刈りの男(1号)に見つかってしまう。店の狭いエントランスに連れ込まれた2人は、中にいたもう一人の丸刈り男(2号)に「何の用でここに来た?」と詰問され・・・。

*

 

  2号は強い口調で詰問を続ける。その度に顔につばきが掛かったが、構わずにへらへらと笑った。30分、この状況をやり過ごせばマリリンが警察に連絡してくれる。その約束を唯一の頼みとして耐えるしかなかった。

 何も答えない俺に、2号は苛つきをつのらせていく。はじめは胸を小突く程度だった手が徐々に固く握られていく。そろそろ殴られる、と身を固くした時、インターホンが鳴った。助かった。まだ30分は経っていないけどマリリンが機転を利かせてくれたのかもしれない。そうでなくても構わない。普通の客でも、この状況は少しくらい打開されるはずだ。

 そんな俺の期待はすぐに打ち砕かれた。1号に伴われて入ってきたのは、唇を固くむすんだマリリンだった。

「どうして?」

 俺の問いにマリリンが目を伏せる。

「下で寂しそうにしていたから連れてきてやった」

 1号が代わりに答えた。そうか、下で俺たちが一緒にいるところを1号には見られているんだった。

「失敗。突然、後ろからドンと押されてエレベーターに押し込まれたから大声を出す暇もなかった」

 その時、壁にでもぶつけたのか、マリリンは肩を痛そうにさすりながら1号を睨む。その反抗的な態度が気に入らない2号がマリリンに顔を近づけた。俺はすかさずその間に割り込んで2号を押し返す。

「ほう。さっきまでとずいぶん違う態度じゃねえか。彼女の前では格好つけたいってわけか。まあ、いい。何もとって食おうってわけじゃないんだ。お前らが何をしにここに来たか教えてくれたら、その理由次第ではすぐに帰してやるよ」

 その理由次第で無事には帰れないってことか。俺は肚を決める。

「ハオランに会いにきました」

 ハオランの名前を出したことが吉と出るのか凶とでるのか。俺はボソボソと話し合う1号2号の反応をじっと待った。

「この店のことを探りにきたんじゃないんだな」

 しばらくして2号が口を開く。

「ここが店なのかどうかも知らないし、それがたとえどんな店だとしても俺たちには関係のないことです。俺たちはただハオランに会えればそれでいいんです」

「会ってどうする?」

 2号の口調は幾分和らいでいる。それほどこの店を探られることに警戒していたということだ。

「できたら連れて帰りたい。俺たちは一緒にバンドをやっていて大事な時期なんです」

「ここにはいないと言ったら?」

 1号が口を挟む。2人並ぶと本当にそっくりだ。双子か、そうでなくても兄弟だろう。まもなく見分けがつかなくなりそうだ。

「警察に行きます」

 俺は賭けにでた。この2人がきっと一番嫌なこと。その証拠に、2号の顔が闘犬の形相に戻る。隣の1号も同じ顔をしていた。

「俺ら相手に脅す気か? お前ら3人くらい、始末するのなんて簡単なんだぞ。幸いこのビルには監視カメラなんて気のきいたものはついてないし、お前らがここに来た手がかりはどこにもない」

 2号はすごむが、俺にはそれこそ脅しだと思えた。始末といっても、いざとなれば俺と真治はそれなりの抵抗はする。この部屋の奥には少なくない客がいるはずで、そんな騒動が起これば当然客たちの耳にも届く。そうなれば闇から闇へのようにはいかないだろう。そういう事態をこの2人は何よりも嫌がるに決まってる。

「僕らとしてもそんなことしたくないんです。ただハオランとバンドが続けたいだけなんです」

 すこし引いてみる。これもセッションの要領だ。相手のソロに対して、やり合うだけでなく、すっと音を抜いてみる。そうするとその相手さえ思いもよらないメロディの展開が生まれたりすることもある。

 俺、いつからこんな交渉上手になったんだろう、と我ながらにして思う。きっと笹井さんや村長たちと渡り合ってきた経験がここで生かされてるのだろう。それともう一つ、オーバジンズをもう一歩たりとも後退させないという決意が、俺の思考をクリアにしている。

 はあ?という声と共に1号が壁を叩く。

「バンド? そんなお遊びのためにこんなところまで来たって言うのか!」

 中国経由でね、と言いたかったが、俺は黙って頷くだけにした。

「ここのことは誰からきいた?」

「それは言えません。言えばその人に迷惑がかかりますから」

 そう言った瞬間にみぞおちのあたりに鋭い痛みを感じた。2号の拳が腹に食い込んでいた。それでも言うつもりはない。トラブルは困ると言いながらも、ここの住所を教えてくれた村長に仁義は通すつもりだ。きっと背後にいるマリリンもそうすることを望んでいる。

「言えません」

 口の中に酸っぱい胃液を感じながら、俺は2号を見た。2号も感情の読めない目で俺を見返す。どれくらい沈黙があっただろうか。2号はふいに視線を外し、頭を掻いた。

「まあいいや。どう見てもサツ関係じゃなさそうだ」

「いいのか? 最近じゃ面白半分で動画を撮ってネットに投稿する輩もいるから気をつけないとって言ってただろ?」

「俺もそれを心配してたんだけど、こんな目してんだ。そういうのでもないだろう」

 痛みに目がくらんでいたせいで、俺には1号2号、どちらの声か聞き分けができない。しかし話が悪くないほうに進んでいることはわかる。殴られ甲斐があったってもんだ。

「会わせるだけ会わせてやる。それで満足したらお家に帰るんだ」

「3人分の死体を処理するのにも金が掛かるんでね」

 もう、どちらが言ったかなんて関係ない。やっとハオランに会える嬉しさと、背中に抱きついてきたマリリンの温もりに、俺の胸はいっぱいになっていた。

 携帯を取り上げられ、免許証を出すことを命じられた。2号が俺たちの免許証を自分のスマホで写真を撮ってから、いよいよ奥に続く扉が開けられた。

 

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 読売新聞の水曜夕刊に掲載されている新感覚カルチャー面。旬の人のインタビューコーナー「ALL ABOUT」を中心に、若きタカラジェンヌの素顔に迫る「タカラヅカ 新たなる100年へ」、コラムニスト・辛酸なめ子さんの「じわじわ時事ワード」といった人気連載に加え、2016年4月から、ポルノグラフィティのギタリストのエッセー「新藤晴一のMake it Rock!」、次世代韓流スターのインタビューコーナー「シムクン♥韓流」がスタート。オールカラー&大胆なレイアウトで紹介する2面にわたる企画ページです。

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