Pop Styleブログ

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お待たせしました。きょうから3回に分けて、対談のほぼ全文を掲載します! 新聞ではあまり使わない「(笑)」あり、「へえー」あり。計約2万字で、お二人のトークバトルを完全再現しました!

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口承文学みたいなものがあるじゃない? こういうことかと思ったね。(いとう)

宇多丸:しつこく持ってきましたよ。これ(※「ミュージック・マガジン」1987年1月号。ヒップホップの特集で、近田春夫さんといとうせいこうさんが対談した)がすご過ぎなんですよ。今読んでもすごいこと言ってますよ。

いとう:すごいこと言ってる? さすが近田さんと俺だね。

宇多丸:当代随一の論客がよってたかって、「今までの文化はださい」「ヒップホップだ」ってね。私は17歳、手もなくやられた(笑)

いとう:それは革命宣言だからね。

宇多丸:最高でした。

いとう:今回「建設的」っていうアルバムの発売30周年の記念アルバムというか、トリビュート盤「再建設的」で、宇多丸にっていうか、ライムス(ライムスター)にカバーをお願いして……

宇多丸:はいありがとうございます。

いとう:で、音源が上がってきて、うわ、すごいって。「噂だけの世紀末」のカバーをやってくれているんだけど、僕の癖みたいなものまで宇多丸が再現してたからびっくりして。ここで息継ぎしちゃうの俺の個人的な癖なのに、ぐらいのとこまでやってるから。

宇多丸:(笑)

いとう:いや、すごいなと思って。口承文学みたいなものがあるじゃない? 古事記もそこから来てるし、インカ神話とか口伝えの。ああいうものって、こういうことかと思ったね。

宇多丸:ほんと寺の坊主ですからね。(その曲の)ライブバージョンが一回テレビで放映されたんです。それを、高2、たぶん87年だと思うんだけど、録画してひたすら見てたんで。自分でもそこまで覚えているって意識はなかったんですけど、今回(カバーを)やるってなって、「あ、できるな」って。

いとう:たぶんそうなんだろうと、聞いてて分かった。

宇多丸:ブレスポイントまでっていうのはほんとにそうですね。いとうさんのことだから、やっぱりブレスとかまで、意味のあるところに置いているに違いないっていう……

いとう:(笑) 必死になって、「あ、しまった、吸うの忘れてた」って吸ってるだけだから。

宇多丸:でもあれ、いわゆるプロトゥールス(※Pro Tools。プロ向け音楽制作ソフト)なんかない時代だったから、相当大変だったろうと。

いとう:うんうん、まあね。基本的に、ラップだと、切り張りで作りたくないというかさ。やっぱり声の調子がすぐ変わっちゃうから。そこは僕はアマチュアなんだと思うんだけど。

宇多丸:いやいやいや。

いとう:だいたい録(と)る時は、もう一発か二発で録ってるんだよね。ずーっと通しで。

宇多丸:へえー。

いとう:だから途中で息ができなくなっちゃってるとすれば、それはほんとに息ができなくなっちゃってるんだよ。

宇多丸:でもそれがいいエモーションのカーブになっていて、Mummy-D(マミーディー)と、「このエモーションのカーブも忠実にやらないと」みたいな。

いとう:(笑) それすごいよ。そこまでやってくれた人はちょっといないから。

宇多丸:世代があまりにもジャストなんで。

いとう:でも、よくその映像を手に入れたね。

宇多丸:ぶっちゃけ、YouナントカTubeにも上がってますよ。

いとう:あ、そうなの? Dub Master X(ダブ・マスター・エックス)が太鼓のやつ?

宇多丸:いとうさんがボンデージパンツ履いて、白いポロシャツ着て、赤いカンゴール(KANGOL)ハットで。

いとう:そうそうそう。

非ヤンキー圏の人が、実は最初にヒップホップをやったっていう……(宇多丸)

宇多丸:でも、ちょっと後のヒップホップシーンでもあんなの見たことないぐらい、それこそマイク1本で、お客さんがあおられていくっていうか。だんだん「うおー」って、扇動されていく。あの盛り上がり方って、今見てもこんなのちょっとないよなって。

いとう:あの時はちょっとね、暴走族の集会感があった。

宇多丸:(笑) また、ヤンさん(ヤン富田)が、車のあれ(アクセルを噴かす音)をスクラッチして、ブルーン、ブルーンって(笑)。

いとう:そうそうそう。完全にヤンキーの状態なんだよね。だから、今のヒップホップに近い。ヤンキーたちが地方でヒップホップやるようになっているじゃない。そういうものに憧れる、みたいな。

宇多丸:ああ、なんかそういうフィジカルな、「ブルン、ブルン」と言って盛り上がっちゃうみたいな。

いとう:そう、そういうのがあった。だから僕のマネジャーは当時、こんないかついヤツだったけど、いつも、うちの事務所のマークをドカンって入れた黒い旗を持たせて、ブンブン振らせてた。それはやっぱり集会感がとっても良かったからなんだよね。で、しかも政治集会の感じも欲しかったわけ。

宇多丸:「建設的」っていうタイトルはズバリそういう時代と……

いとう:みんな「脱構築」「脱構築」って言ってたから、逆をやろうじゃないか、っていうこともあり。

宇多丸:あ、なるほど、その「建設的」なんですね。

いとう:コンストラクトしようということでタイトルを付けたけど、やってることは旗持って走っているヤンキーと変わらなかったっていう……。

宇多丸:ヤンキーイズムということでいえば、今となっては、ヒップホップがある意味、日本でも落ち着くべきところに落ち着いたというか。

いとう:そうだね。

宇多丸:でもいとうさんも、僕もそうですけど……

いとう:俺たちヤンキーじゃないからね。

宇多丸:そう。どっちかって言うと非ヤンキー圏の人が、実は最初にヒップホップをやったっていう、このねじれってどうとらえてます?

いとう:やっぱり、ヤンキーは、ヒップホップをいきなり解釈できなかったと思うんだよね。

宇多丸:そうですね。

いとう:だから、トランスレーター(通訳)が必要だったと思うわけ。それで、トランスレーターとして、俺たちが早い時期にラップを始めた。しかも、ヒップホップとかラップにはこういう可能性があるんだっていうことを、まず自分たちで掘って見せるということが、必要だったんだろうね。ということは、僕らはもう、次のヒップホップに行くべきで……。ヤンキーみたいなのが日本語を使いこなせるようになってる、とすると、僕らは違うところに、もう1回何かを探して行かなければいけない時期なんだろうなとは思っている。だってあんだけフリースタイル(※即興のラップ)でさ、それこそ「フリースタイルダンジョン」(※テレビ朝日で放送中のラップバトル番組)とかで人気が出て、スターになれるようなレベルのラッパーが次々と出てくる時代じゃないですか。そうすると……、あれ、(宇多丸は)フリースタイラーでしたっけ?

宇多丸:フリースタイルの限りなく最初期、始まった現場、始めた人間の横にいました。まあ下手な人だけど、一番最初にやってみた組です。

いとう:でも基本的には、フリースタイルとはちょっと違うというか、自分たちで作ったものをやりたいっていう方じゃないの?

宇多丸:僕自身は、どっちかって言ったら、構築型なんだけど、最初にトライした組の一員ではあります。その後、KREVA(クレバ)みたいに、フリースタイルから始めて、めちゃめちゃうまい世代が出てきた時に、「はい、お役ご免」と……。

いとう:そういう感じあるよね。それは分かる。俺もスチャダラパーが出てきたんで、とりあえずヒップホップはちょっと任せておこう、というふうに降りていっちゃった。その後すぐライムスが出てくるでしょ。だから、同じ。自分の何かを探したいっていう。そこにアーティストシップが出てくるだろうし、そうであってほしいと思ってるんだよね。

だから今、屁理屈(へりくつ)言うヤツがよくラップやるな、みたいに見られる。(いとう)

宇多丸:初めてお会いした時かな、いとうさんは「俺はヒップホップの考え方で、どこに行ってもやっているつもり」って。あ、やっぱりほんとにそうなんだっていうのをすごい感じた。

いとう:それは絶対にそう。小説書く時だってそう。とにかく人が気付かなくても、引用はいっぱい入れる。切り刻んで中にまぶすとか。それは完全にヒップホップのやり方だからね。あるフレーズが入ると、「あ、これ三島由紀夫じゃないか」「あ、これヨーロッパの誰々じゃないか」ってことに、気付く人は気付くかな~って。しかも、引用することによって、自分の文体の癖が直るっていうか、手癖で書かないっていうかさ。

宇多丸:僕が影響を受けた「ミュージック・マガジン」の近田さんとの対談で、「『俺のこのギターのフレーズ、オリジナルだぜ』って言ってるヤツが一番オリジナリティーがない」っておっしゃってますね。

いとう:そうそうそう。

宇多丸:自分のオリジナリティーのなさを意識してないというか、積み上がってきたものを意識してないと。

いとう:そう、そういう場合は、過去のものを聴いて、弾いてるっていう意識がないじゃん。でも、ヒップホップの場合は、面白いことに、それって誰々が昔やったフレーズだと知っているからこそ、みんなが「うおー」っとなる、ということがあった上で、さらにうまいこと言うっていう。完璧にこれ、和歌の世界なんだよね。

宇多丸:ラップバトルもそうですね。相手が言ったことをのみ込みつつ返すって、まさに……。

いとう:返歌だよね。それをこんだけ速いリズムでやれるようになったっていうところに俺は……。

宇多丸:リアルタイムで返していくんですもんね。

いとう:さすがに紫式部は、この速さでは返せないと思うよ。いくら素晴らしい歌うたいだったとしても。それが今できるようになっているってことの面白さ。

宇多丸:これ(ミュージック・マガジン)って86年の冬なんですけど、振り返って、アメリカのヒップホップの歴史とかひもといても、この頃って、アメリカのヒップホップシーンも実は小さいんですよ。

いとう:そうだよ。ニューヨークでちょっとやってたぐらいなんだよ。

宇多丸:まだLA(ロサンゼルス)は全然花開いてないし。調べてみると、あんまり変わらないんですよね、日本のヒップホップの歴史の流れと。なので、この予言ぶりって、やっぱりすごいですよ。

いとう:いいこと言ってるでしょ、きっと。きっといいこと言ってる。

宇多丸:あれ、覚えてない(笑) 俺の方が読んでる?

いとう:ニューヨークでさえ、ヒップホップの可能性は、こんなふうに考えられていなかったと思うんですよ。それはやっぱり、あれが彼らのヤンキー文化だったから。日本の場合は、ヒップホップは輸入されてきたもので、輸入物に目が行くのはカルチャーが好きなタイプだから。自動的に「これはなんなんだ」っていうことに対する考えが深まったと思うんだよね。その深まりを自分たちの作品で、アバンギャルドな音楽をトラックに取り入れて、ということをやった。同じヤンさんのトラックを、ニューヨークの連中が聴くことによって、ニュースタイルの連中が出てくるっていう、音楽的な呼応があった。だから、日本の場合は、オールドスクール(※英語で「古典的な」の意味。1970~80年代前半のヒップホップ黎明(れいめい)期やその時代のアーティストを指す)が一回、掘り過ぎるぐらい掘ったんだよね。だから今、屁理屈(へりくつ)言うヤツがよくラップやるな、みたいに見られる。

宇多丸:初期はそうでしたね。

いとう:それは宇多丸のせいもあるよ。

宇多丸:ううっ(笑) 

いとう:それは君、責任取ってもらわないと。

音楽としてより、思想として影響受けちゃったので。(宇多丸)

宇多丸:でも、啓蒙(けいもう)が必要な時期が長かった、ということだと思うんですけどね。いまだに終わったわけじゃないと思うんだけど。まあ「フリースタイルダンジョン」とか、分かりやすいブレイクスルーがあったんでそれは良かったけど、「え、まだその話しなきゃいけないの?」みたいなね。

いとう:そうだね(笑)。

宇多丸:そういう意味では、泥臭い作業がまだ続く、みたいな。「日本人がラップするなんて」みたいな時に、「いや、ほら、これ返歌の世界だし」とか。

いとう:万葉集以前の時代ぐらいからあることをやってるからって。

宇多丸:それを説いて聞かせる。まあ、説いて聞かせるのが好きだってのもあるんですけど。

いとう:そうだろうな~(笑) それはね、宇多丸がいたことは大きいんだよ、俺にとっては。だってさ、スチャ(スチャダラパー)はそういうことやらないじゃん。

宇多丸:あ~あ~。

いとう:啓蒙はしない。まあ一生懸命ライブはやるけど。BOSE(ボーズ)は、ある程度言いたがりだけど、説教師というタイプではない。説教師が、俺、近田さんの後は、やっぱり宇多丸になるわけよ。

宇多丸:そうでしょうね。何しろだって僕、この対談に、音楽としてより、思想として影響受けちゃったので、やっぱそこを説いていきたいみたいな。そうすると、ちゃんと、サイプレス上野みたいなのが登場したりするから。

いとう:そうなんだよ。つながるんだよね。

宇多丸:やっぱり種まけば、それなりのことはあるっていう。

いとう:確かにそうだ。そこを今担ってるもんな。

宇多丸:それこそ僕がいとうさんを仰ぎ見てたように、僕が説いてると、高校生だった上野が毎月手紙くれる、みたいな。

いとう:(笑) あいつ手紙くれてたの?

宇多丸:だから会った時には、「ああ、上野君」って(笑) 

いとう:かわいいなあ。それで「建設的」っていうイベントずっとやってんだからな。あいつが。

宇多丸:ある意味、孫ですよ。いとうさんの。

いとう:直系だよね。全然知らないで、サ上(サイプレス上野)たち、面白いことやってんなあって。やっぱりこっちも分かるんだろうね。あいつらが飛び抜けて面白かった。今回も「再建設的」で1曲やってもらってるけど。面白いことやってた。まあ、一生懸命頑張ったんだろうね。

宇多丸:「マイク一本」ですね。完ちゃん(高木完)がトラック作って。BPM(※ビート・パー・ミニット。音楽の演奏のテンポを示す単位)がめちゃくちゃ速いんですけどって(笑)

いとう:すごいよ、あれ。あれをこなすってすごい。俺でもできないかもしれない。面白かった。

宇多丸:楽しみです。

(つづく)

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 読売新聞の水曜夕刊に掲載されている新感覚カルチャー面。旬の人のインタビューコーナー「ALL ABOUT」を中心に、若きタカラジェンヌの素顔に迫る「タカラヅカ 新たなる100年へ」、コラムニスト・辛酸なめ子さんの「じわじわ時事ワード」といった人気連載に加え、2016年4月から、ポルノグラフィティのギタリストのエッセー「新藤晴一のMake it Rock!」、次世代韓流スターのインタビューコーナー「シムクン♥韓流」がスタート。オールカラー&大胆なレイアウトで紹介する2面にわたる企画ページです。

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