ネット上に投稿された節電などを呼びかけるポスターが、築地本願寺の石塀に100枚以上も張られているのをご存じですか。ネットとお寺ってイメージがあまり結びつきませんが、この震災を 機に生じた人々の善意の輪の広がりや、ネットとリアル社会がつながったことを象徴する出来事といえるでしょう。
「節電ポスター」作成の呼びかけは、早くも震災発生翌日の3月12日に、ツイッター上に登場しています。ウェブ関連の仕事に携わる山本興一さん(27)が、「節電広告」というサイト(http://setsuden.tumblr.com/)を作り、デザイナーさんたちに向けて投稿を呼びかけたのです。
「3、4日で1000枚ぐらいがアップされた」(山本さん)というのは驚きですが、山本さんは「震災で、自分も何かの役に立ちたかった。同じように何かしたいという人は多いと思ったので、この反応の良さには納得感がありました」と語っています。
山本さんは活動の途中から、ポスターをパブリックドメイン(著作権などを放棄 し、社会全体の公共財産にすること)とし、デザイナーの方の善意を街の喫茶店やコンビニ等で活用してもらおうと考えました。さらに、節電だけではなく買い占め抑制を呼びかけるコピーも含めた、「復興支援ポスター」という新たなサイト(http://pstr.jp/)も立ち上げました。
ネット上で始まったこの動きは、リアル社会にも波及していきます。個々人がネット上のポスターを自由にプリントアウトし、飲食店やコンビニの店頭、学校等で次々に張っているのです。その中でもインパクトの大きい行動をしているのが、東京の築地本願寺です。
築地本願寺は3月17日から、玉垣と呼ばれる外塀にラミネートしたポスターを張り出しました。その数、100枚以上。築地市場に近く、観光客や買い物客、サラリーマンなど人通りが多い場所だけに、とても目立っています。
この動きには前段階があります。震災当日の11日、築地本願寺は、帰宅困難となった人々を200人以上も宿泊させていたのです。乳幼児連れの人や体調不良者には個別の和室を提供し、女性専用の部屋も設けたそうです。おにぎりやスープも提供した上、大画面でテレビを流したり、携帯電話の充電にも対応したり、ホワイトボードで鉄道の運行状況を示したりと、対応は至れりつくせり。
この時、ツイッターを通じて避難所情報を告知していたのが、本願寺職員の平井裕 善さん(36)。本願寺ではウェブ担当として活躍する平井さんは、その後の節電ポスターの動きにも共感し、お寺でのポスター掲示を提案したのだそうです。提案を受けた石川勝徳さん(44)も、「美観を損ねるのでは、という声もあるかもしれないが、人通りが多い場所にある発信できる寺として、社会に貢献できれば」と賛成。本願寺は、被災地にも物資を送るなど支援を行う一貫として、ポスターの掲示を決めました。外塀に掲示されたポスターは、次々に新しいデザインのものに更新されています。平井さんが、ツイッター上での「こんなポスターも張ってほしい」などの声に応えているのです。
節電ポスターは、「スープストックトーキョー」などの企業の取り組みもあるなど(http://www.yomiuri.co.jp/komachi/news/20110322-OYT8T00275.htm)、様々な形で広がっているようです。被災地の方々へ直接届く支援ではありませんが、震災にうち沈んだ人々の心を癒やし、背中を押してくれる価値ある活動ではないでしょうか。(popきよし)
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