どうもこんにちは。(汗)です。いわゆる「直言兄弟」の片割れですが、弟の福田君が転勤してしまったので、ツービート(古い)のビートきよしみたいな存在になってしまいました。
で、今回、ALL ABOUTで乙一さんを書きました。私はふだん「デスク」という仕事で、も っぱらスタッフのみなさんの原稿を手直ししたりブラッシュアップしたりしてるんですが、ここだけの話、ストレスがたまる一方で面白くありません。自分の原稿を書くと、「ズキュゥゥゥゥン」という感じで脳内アドレナリンが出て、書き上げたあとに達成感があるのです。やっぱ、時々は自分の原稿書かなきゃな、と思って、ムリを言って書かせてもらいました。
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で、乙一さんですが、以前からこの作家が気になってしょうがなかったのです。実は昔からのファンと言うにはほど遠く、『GOTH』から入ったのですが、その面白さにぶっ飛びました。『ZOO』もとんでもない好短編集で、乙一恐るべし、と思っていたのです。 その乙一さんが、『ジョジョの奇妙な冒険』の第4部をノベライズする、という話は、かなり前から聞いて、ワクワクしていました。ところが、いつまでたっても本が出ない。
そのうち、ずっと企画が新しい西尾維新さんの『DEATH NOTE』ノベライズの方が早く出てしまいました。乙一さんも、「さすがに焦った」そうです。 今年1月に荒木飛呂彦さんをALL ABOUTで取り上げたこともあり、乙一ジョジョもぜひ自分でやりたい、と思っていました。その『The Book』がついに出たわけです。いい機会なので、これまで読んでなかった乙一さんの過去作もできるだけ読み、新聞インタビューの決定版にしたいと大それたことを考えました。
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ところで、乙一さんは、非常に他人に説明しにくい作家です。デビュー当初は「ホラー作家」に分類されていましたが、いま、この枠に収めるのはムリです。ファンタジー色が強いかと思えば、『暗いところで待ち合わせ』みたいに、まったくその手の仕掛けがない傑作もあります。『GOTH』みたいにダークな作風かと思えば、『手を握る泥棒の物語』みたいなコメディーもあります。泣かせあり、不条理あり、とにかく、「何でもありの分類不能」というのが乙一という作家です。 しかし、作品を読んでいくと、「乙一らしさ」みたいなものが、漠然と分かってきます。私は勝手に「乙一的状況」と呼んでいますが、まずシチュエーションにものすごく凝る。そのシチュエーションがSF的だったりホラーだったりするわけですが、その上に、コミュニケーションの「不全」状況を乗っけるのが乙一的だと思います。
私なんかが典型的だと思うのが、『ZOO』所収の『SO-far そ・ふぁー』という短編で、よくこんな話を思いつくな!とあきれるくらい巧みです。『平面いぬ。』も舌を巻くほど見事な短編で、なぜこの作家がN賞候補にならないのか!と怒りすら覚えたくらいです。理由は簡単で、乙一さんはハードカバー作品が極めて少ないのです。再編集の『失はれた物語』を除くと、『The Book』を入れても4冊しかありません。N賞は、ハードカバーでなければまず候補になりません。そういう妙な慣例があるのです。
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さて、『The Book』ですが、『暗黒童話』を超える、彼の最大長編です。ひとことで言っ て、相当えぐい、救いのない話で、乙一〈ダーク〉テイスト全開です。しかし、ラストできっちり感動させてくれるのがさすがです。ストーリーは完全オリジナルで、吉良吉影が倒されたあとの出来事のようですが、ひとつ、『ジョジョ』第4部で未回収に終わっていたある重要な「伏線」が出てきて、原作ファンなら膝を打ちたくなるような仕掛けがあります。
原作を知らなくても、十分小説として楽しめると思いますが、やはり『ジョジョ』ファンの方が喜びが大きいでしょう。 例の「本の形のスタンド」について、思わず作家に聞いてしまいました。 ――もし、琢馬が幸福な人生を送っていたら、あのスタンドは攻撃力に成り得ないんですよね? 「そうですね。人を幸福な気持ちにさせるだけですから」 ……こういうのが「乙一的状況」だと思います。どこか、奇妙なんです。
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記事中には盛り込めませんでしたが、乙一さんは有名なゲーム好きで、ただ今PSPの改造に凝っているそうです。いろんな改造プログラムをぶち込んで、PSPで「スーパーマリオ」とかやってるそうですが、「そういう既成の価値観を組み替えて遊ぶのが楽しくて、それは今回のノベライズとか、同人誌とか、ライトノベルとか、いろんなものに共通している感覚だと思います。ニコニコ動画とかにも」――これは、乙一という作家というより、この世代の作家の共通認識として、けっこう重要なんじゃないかと思います。乙一さんが「杜王町」が好きというのも象徴的で、こうした「ご町内限定空間バトルロイヤル」みたいな趣向は、「Fate/stay night」にも端的に現れています。杜王町は、この世代の〝心の故郷〟なんですね。私は、「オタクは空間的制約に萌える」という仮説をひそかに立てています。
乙一さん自身の故郷は、デビュー作の『夏と花火と私の死体』に描かれたような、むしろ人間関係が濃密な地域共同体(雛見沢村みたいな?)だったようで、「杜王町みたいなこぎれいな新興住宅地ではなかった」そうです。だから、必ずしも成育環境とは関係ないんですね。そこも興味深いです。 最後に、やっぱり聞いてしまったおバカな質問。 ――押井監督を「お義父さん」と呼んでいるんですか? 「結婚式以来、全然会ってないんです」 あ、そうなんですね(^^;)
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