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第8章 奇跡

 宇多丸 ベスト(「Perfume~Complete Best~」、Photo_906年8月)出して、「チョコレイト・ディスコ」(メジャー4th「Fan Service」収録、07年2月)のリリースが決まる、ちょうど狭間の時期に、彼女らと雑誌で対談したんですけど、そのときはやっぱ、3人ともすごく先行きを不安がってました。

  3部作終わっちゃったよね、みたいな。

 宇多丸 そしたらマネージャーさんが、「いや、実はレコーディング決まったよ」と。それが後の「チョコレイト・ディスコ」だったんですけど、そこでひとまず一同「ああ、よかった!」って。

  ベストアルバムの売上げがある程度の数字に達しないと解雇されるだろうという行く末は、彼女たちにも見えてたんですね。

 宇多丸 あれは初回1万枚でしたっけ。初回で1万もけっこう多いほうです、このジャンルではちなみに。

  アイドルソングで1万売れるなんて、いまどきもうハロプロ以外にはありえませんからね。

 宇多丸 だから初回は多分、全部は「はけない」前提での1万。Perfumeは一部で評判いいみたいだから一応このくらい行っといてもいいか、の1万です。そこで終わりでもおかしくなかった。それを、1年かけて5万売ったんですから!

  ありえないですよ。アイドルソングは初回プレスっていうか、初週で売り切らなかったら意味のないジャンルなんですよ。

 宇多丸 アイドルは特にね。いや、ほかのジャンルも今はそうなりつつありますよ。もう売り出して1か月間のプロモーションが勝負って考え方ですよ、レコード会社は。

  かわいい女の子を応援したいだけの気持ちや、握手会イベントありきの付随商品としてのCDだったら、やっぱり発売2週目から売れなくなっちゃう。ファンが買ったらおしまい。でも、新しく入ってきた人がどんどんどんどん、これは純粋にいいもんだって買っていく音楽がやっぱり本物じゃないですか。

 宇多丸 言い方は悪いけど、ちょっと前までだれも知らないB級アイドルだったわけですよ、事実上。それがオリコンの4位に入るというこの振り幅は、多分僕の一生で、もう二度と経験できないと思う。こんなこと見たことあります? アイドル史上。

  いや、ないですね、全然。我々、ハロープロジェクトが出てきたときにあれだけ乗って、そこから間の寂しい何年間があったからこそっていうところもありますよ。本当、だから奇跡ですよ。ありえないことが起きちゃったってことです。

 宇多丸 本当そうです。

  本人たちが一番ピンと来てないかもしれないですよ、そういう意味じゃ。

 宇多丸 ま、やってることはずっと同じだったわけですからね。

  でも、その数年間のあいだで、例えばトークの技術にしろ、歌の技量にしろ、かなり上がってると思いますよ。

 宇多丸 そうです。そりゃそうです。

  ダンスはアクターズスクール出身なんで、専門というような意識があったでしょうから。

 宇多丸 いや、でもそこ、意外と大きいですよね。フォロワーとかと比べると、「あ、Perfumeって踊りもすげえなあ」みたいな。

  似たようなものが出てきたときに、追随させないための要素をけっこう持ってるんです。

 宇多丸 意外とそうですよね、確かに。むしろ一番模倣しやすいのはサウンドかもしれないというぐらいで。

  やってみたら曲以外の部分が何も似せられなかったみたいな、そういう結末が意外とあったんです。それが正直ビックリしましたね。

 宇多丸 美しいなぁ。

  そろそろ誰かやるだろうなと思ってたら、最近になってフォロワーが出てきたんです。でも、同じような曲なのに、それほどクオリティの高さを感じないのはなぜなんだろうと。

 宇多丸 やっぱり、一貫した路線で少しずつブラッシュアップしてる結果ですよ。僕らファンだとずっと見てるから逆にわかんないけど、実はとんでもない地点にきてたという。

  今から入ったら、相当クオリティの高いものを見られる。それこそ、今から過去にたどっていく人って、すごく楽しいと思いますよ。

 宇多丸 そうですね。「初期はこんなだったのか!」っていう驚きもあるだろうし。

  で、過去を知ってる人たちも、これだけ世間の方々に受け入れられてきた歴史をPerfumeと一緒に逐一体験できたということは、これほど幸せなことはない。でも、広島時代から追っかけてきてる人もいますけど、あの頃とは随分かけ離れたところに来ましたよね。まだ一般的なアイドル像を追おうとしてた初期のままの状態では今日の成功はなかっただろうけど。本人たちも一般的なアイドル像しか浮かばなかっただろうし。

 宇多丸 だってね、それ以外のビジョン、世界中のだれも持ってないんですから。

  ファンも作り手も、評論家である我々でさえもね。Perfumeの新曲を評して、宇多丸さんは「正義は勝つ」っていう言葉を使ってましたけど、本当に毎回ライブを見て、ちょっとウルッと来るのは、やっぱり正義が勝ってる様を見ちゃうからなんでしょうね。

 宇多丸 アイドル好きにとって、この二十数年間は基本的に、「正義なんか勝たないよ。この世は闇だよ!」っていうことばっかりだったわけですよ。もう本当、なんでこんなの好きなんだろうって自分を呪うようなね。

  毎度毎度、期待を裏切られてね。いいと言って評価してた音楽が、事務所のシフトチェンジにより、「じゃ、違うのやってみましょうか」みたいな簡単な一存で、あっさりダメにされていくんです。

 宇多丸 こっちがいくら全力で「今回の曲はすごくいいですよー!」って応援しても、あらゆる意味で何のリアクションもなくてね。あとは、「相変わらずそういうことやってっから世間の人にバカにされんだよ」っていうような、おかしな古びたアイドル管理の仕方とかね。あれ言うな、これ言うな、フライデーされたらクビ……何を誰に謝ってるかわからない謝罪が出たりしてね。

 Perfumeもこれだけ売れちゃったから、今後は事務所の意向が必要以上に介入してくる恐れがある。だから、それは気をつけてくださいねと、重々気をつけてくださいねと言いたいです。

  でも、アミューズさんという事務所自体が、作家性を大事にしてくれる事務所ではあるんですよね。

 宇多丸 そうですよね。やっぱりもとがアーティスト事務所というかミュージシャン事務所ですからね。

  サザンオールスターズが新曲を出す前には会議があるらしいんですよ。それも、スタッフの会議じゃなくて、全国のファンクラブの支部長クラスが全国から寄り集まって、次のサザンに望むものを語り合うって。そこで合議制で新曲の曲調とかがある程度決まったりするって。

 宇多丸 そんなシステムがあるんだ!

  ファンの声を汲み上げようという気持ちは一番持ってる事務所だと思います。もし変化することが時代の要請で、ファンの要請だったら、そこは変えるつもりはありますよって。売れてるアーティストを大事にするために、バーターで売り込みはしないという、そういう信念も持ってる。

 宇多丸 とにかくやっぱり彼女たち、本当にすごく性根のいい子たちだし。管理なんかしなくても全然、そのまんまでアイドル的なわけですよ。

  本物の性根のよさを持っていることがにじみ出るから、関わった人も、ファンも、全員が彼女たちを心の底から応援できる。

 宇多丸 だって、あれだけ本当のことしか言わないのに、いやな感じはしないのは……

  性根がいいからでしょうね。「ああ、この子が言うんだったら許せるな」っていう人徳みたいなのがありますし。

 宇多丸 その意味で本当にPerfumeは、アイドルにとって一番必要なものだけが残ってるみたいな感じだと思います。決してさ、例えば美形という意味ではトップクラスってわけではないわけです。つまり、そこでアイドルの価値が決まるわけじゃない。

  女の子とのコミュニケーションのスタイルがすごく分化されてったひとつの結果なんでしょうね。例えばAVを見れば性欲が満たされる。グラビアアイドルみたいなものを見れば、かわいい女の子を見たいという欲求が満たされる。だけど、アイドルソングを聴くという上でどんな欲求を満たせばいいんだろうというのが、多分みんな見えてなかったと思うんです。それをやっと形にしてあげたというか。アイドルにまとわりついていた余計な要素を取り払ったあとで残ったものというんですかね、最終的に。それがPerfumeなんじゃないかなって気がし
ますね。

 宇多丸 で、それを作ってったのは、だから、だれでもない……

  神の見えざる手(笑)。

 宇多丸 今後は、ものすごい今の大きな話からするとつまんないことになっちゃうけど、ちゃんとオリジナルアルバムを作ってほしいですね。

  ああ、そうですね。リリースしてない曲なんかもけっこうありますしね。で、それはその今の世界観に相反するものではないので、一度ちゃんと1枚にまとめてほしいなという気持ちはありますね。今の世界観をきっちり突き詰めたちゃんとしたアルバムを、全曲オリジナルでとは言いませんが、作っていただきたいですね。

 宇多丸 いや、もうそんなのができたら、だってあのベスト盤の時点で僕、連載で満点つけてんのに、何点つければいいのかわからないっていう。

  死ぬかもしれない(笑)。

 宇多丸 もう死ぬしかない(笑)。

  良すぎて死ぬ(笑)。

 宇多丸 そのくらいの勢いですよ。

  しかし、もう今はいろんな方が評価してくださるので、多分俺なんか全然介入しなくてもいいだけのとこ来ちゃいましたから。できれば、もう俺とかのイメージは一切なくしてもらって。俺が推してるってことで、よくない影響がね……

 宇多丸 いや、本当ですよ。

  本当に。木村カエラが推してるってことでいったほうがやっぱりいいですよ。

 宇多丸 僕らは静かに身を引こうよ。

  掟ポルシェがなんで? そんな芸人風情が!? みたいな話じゃないですか。

 宇多丸 「申し訳ないと」出たとか、そういうのはもう黒歴史にしたほうがい
いよ。

 記者 お忙しい中、本当にありがとうございました。

  すみません。長々と話してしまいました。

 宇多丸 いやいや、本当我がことのように・・・ね。

  うん。でも本当にわがことのように、よかったと思えます。ライブの最中にあ~ちゃんとかしゆかがよく泣くんですけど、それ見てちょっともらい泣きしちゃうんでよね。ま、のっちは基本的にあまり泣かないんですけど、泣いてる二人の横で気丈にまとめようとしてるのを見てまた泣けてくる。

 宇多丸 いや、僕なんかよりずっと、ちゃんと現場いつも行ってるような人とかだったら、もうその思い入れたるやね。

  正義が勝った瞬間みたいなものを毎回毎回味わえる。最近のライブなんか、毎回そうでしょうね。いつも泣いてる気がする(笑)。ライブ会場のキャパも倍々ゲームで来てるんですけど、追いつかないんですよ。

 宇多丸 だって入りきらないでしょう、もう。

  入り切らないですね。今のレベルならZepp TOKYOでやっと入り切るぐらいじゃないですか。潜在的な人口と1回見てみたいって人を全部入れてみて、入り切るのが多分4000とかそのぐらいじゃないですかね。アイドルというものを通して心洗われたいという人口は今後どこまで増えるのか、まだまだ楽しみですね。

 記者 ちゃんとインタビューの本文中にも掟さんと宇多丸さんの名前は出てくると思いますので。

 宇多丸 ああ、そうですか。いや、もう僕たちのことは忘れてくれって言っておいてください。

 記者 「掟さんのような変な人にしかわかってもらえないのかなと思ってた」みたいな(笑)。

  えっ、変な? 変な人扱い!?(笑)。ガクッ……。

 記者 「宇多丸さんも褒めてくれるけど、『あ、宇多丸さんもそっち系の人なのかな』とか思った」って(笑)。

  そっち系(笑)。「オタク? オタク?」みたいな話?

 宇多丸 ひでえなあ(笑)。

  「ヒップホップやってるんだけど、本当はオタクなんだ?」って。

 記者 そういうことを言うところが彼女たちのいいとこなのかなと思いました。

  ガクッ……(笑)。

 宇多丸 ガクッ……(笑)。

  いやあ、やっぱりもうちょっといろいろ真面目にやっとくべきだった。ガクッ……。

 

 (対談終了後)

  ヘン……変わり者? 何でしたっけ。

 宇多丸 変な人。「掟さんみたいな変な人にしか、変な人にしか人気がないの
かな」(笑)。

  と彼女たちは悩んでいた、みたいな(笑)。うれしくねえ!

 宇多丸 ひどすぎる(笑)。

  そんな気持ちで見ていたのか、今まで。

 宇多丸 優しく接してくれていると思っていたのに!

  このやろう!(笑)

 宇多丸 これ以上嫌わないで!(笑)

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 読売新聞の水曜夕刊に掲載されている新感覚カルチャー面。旬の人のインタビューコーナー「ALL ABOUT」を中心に、若きタカラジェンヌの素顔に迫る「タカラヅカ 新たなる100年へ」、コラムニスト・辛酸なめ子さんの「じわじわ時事ワード」といった人気連載に加え、2016年4月から、ポルノグラフィティのギタリストのエッセー「新藤晴一のMake it Rock!」、次世代韓流スターのインタビューコーナー「シムクン♥韓流」がスタート。オールカラー&大胆なレイアウトで紹介する2面にわたる企画ページです。

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